わたしは養父が、それこそ魂を削って絵を描いているのを、未成熟な心でなんとなく察していた。けれど、そのエネルギーの根源がいったいどこにあるのかは、樹海で最初に育まれた木がどれであるのかわからないように、ようとして知れなかった。かと思えば、中途半端に分け入った養父の心情を考えると、得てして手近なものがそれに相当するのかもしれない気がしてくるのだった──次の瞬間には、やはり違うように思えて、一様に並んだ他の根源たりうるものと同一化し、埋没してしまうのだが。
病弱で枯れ枝のように細い腕や指が、大儀そうに絵筆を持ち上げる姿。幽鬼のように虚ろなまなざしの奥で、強烈な性欲じみた光がぎらぎらと閃いている。灰色の空間の中、絵筆の先がたっぷりと含んだ色彩だけがまぶしい。ひんやりとした夜気が、肌を撫でると同時にアトリエの空気をかき回し、むっと顔料の濃厚なにおいが押し寄せた。
「開けておいてくれないか。寒くはないから」
風邪をひくかもしれないと懸念して立ち上がりかけたわたしを、養父はかすれた声で引き止めた。
セフィロトは何処か
このおとっつぁんは病弱病弱ゥ! な人。死にはしないけれど風邪ひくたびに死にそうな目にはあってる。