「なぜならお前は触れたからだ。私の最も深い部分に。鋼と見紛う私のこの心臓を、その刃で刺し貫いて見せたではないか。私は、私の躯に張り巡らされた管を伝う血液が冷たいものだと信じていた。だが違った。お前がそれを教えたのだ。言葉と魂で以てお前に科した桎梏を、お前はその強靭な意志で打ち砕き、閃かせた刃と同じ鋭い気性で果敢に私に挑みかかっただろう。実に見事な一撃であった、この私が何一つ抵抗を許されなかったのだから。私はお前に刺し貫かれて知った、私の器を満たす血液よりもなおお前が振り翳した刃が冷たかったことを。沸騰するような憎悪に裏打ちされていたというのに、私の躯を過ぎ去る刃はそこから血潮を凍り付かせてしまいそうなほどに冷えていた。
私はそこで考えた。――私はまさしくその瞬間まで、お前に裏切られることなど露程も想像していなかった。それどころかお前が自らの意志を取り戻すことなど到底有り得ないと高をくくっていた。一方的な関わりは私が確かに望んだものであったが、しかしそれに倦んでいたのもまた事実。何よりも私はお前の苛烈さに恋をしたのだから――おや、これは言っていなかったか? つまりそういうことだ。
……どういうことかわからないという顔をしているな。それならば端的に教えてあげよう。
私は嬉しかったのだよ。実に嬉しかった。私を殺すという原始的な行為によって、私が愛した激しい気性のお前が蘇ることが、この上ない僥倖だった。さらに、お前が私から逃げるために何度も死を選ぶ様はとても私を惹きつけた。正気を保ったままできることではない。
だから私もお前に向き合うことにした。お前が逃げ続けるというのなら、私はどこまでもお前を追いかけよう。地の、海の、空の果てを超えて、時間すらも尽きる場所までお前を追いかけて追い詰めて、必ず跪かせよう。お前が私から逃れるために必死で足掻く姿を、満足するまで愛でてからお前の意志を踏み躙ろう。その思い出だけで未来永劫生きていけるように」
躙り愛(にじりあい)
我儘気儘傲慢なある神様に気に入られた女の子の話。強制的に嫁にされた上に意志を奪われて飼い殺し状態だったけど、隙を突いて意志を取り戻し、怒りに任せて神様の心臓ぶっすり刺す。死ななかった畜生! しかも魂レベルで繋がっている(繋げられている)せいでちょっとやそっとでは逃げられない。そこで神様から逃れるためにその場で自殺し、転生を続けて逃げる嫁さん()。この嫁さん肝据わりすぎ。何回も自殺→転生を繰り返すせいで生死の観念がめちゃくちゃ。それを追いかける、刺し貫かれた際に初恋刺激されておまけに変な方向にこじらせてしまった旦那さん()。こっちは嫁さんに会うため人間に混じって生活しているうちにちょいちょい人間らしくなっていく。それにしてもとんでもないDV夫婦である。
転生するたびに神様が赤の他人から身内になり親等がどんどん近づいてくるとか[ネタ]
ちなみに最初のイメージは砂浜でキャッキャウフフ捕まえてごら〜んと追いかけっこしあう、恋人同士のよくある(?)ワンシーンだった。