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浜野さんの玉の輿事情
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浜野美和子、英聖学院大学経済学部経営学科の二年生です。

ちなみに実家は地元商店街で自転車屋さんやってます。だからといって実家の家業を継ぐためにわざわざ経営学を学んでいるわけではありません。

ここ英大はお金持ちの生徒が集まるってことで、尚且つこの経済学部には御曹子が特に多いという情報を得て英大を目指すことになったのです。最終目標はここで彼氏をゲットして玉の輿に乗ること。

特待生としての入学しか私には選択肢がなかったので、入学試験は論文一発勝負。小論文ではなく論文です。経済に関することならお題フリー。

特待生になるからにはそのぐらい書いてみろという学校側からの挑戦状だと考え私が提出したのは、“地域経済活性化に向けての考察〜あるモデル商店街の実践過程の検証より〜”です。あるモデル商店街はもしかしなくても私の地元。命を削って書き上げたといっても過言ではないこの大作が認められ、見事に合格。

そんなこんなで、この環境にもすっかり慣れ、今日は新しいゼミの飲み会。

入学したての頃はお金持ち学生の飲み会はホテルの高級ラウンジとかなのかしらと思ってたけど、普通にその辺の飲み屋とかで安心した。こっちの方が気楽で楽しめるらしい。

今日の一次会は普通の居酒屋さんの個室で十五人ぐらい集まって、終始賑やかだった。

今は二次会で、お洒落なダイニングバーに十人ほど参加。男女五人ずつで合コンみたい。お店は結構小さくて、五十人程度しか入らないぐらい。でも雰囲気が落ち着いてて好きかもしれない。


「優希、メニュー取って」

「ほい」

「サンキュー」


そして、なんと行ってもこの場には櫻井優希がいる。彼と同じゼミに入るために高い競争率を勝ち抜けたのよ。

あの櫻井家のお坊ちゃま。実家は病院と会社を経営。そしてイケメンで笑顔は可愛いし人懐っこいし、何より次男。最高じゃない。

ターゲットをロックオンしたのはいいものの、どう近付くべきか。彼、男友達が多過ぎて迂闊に女の子が近付けないのよね。今だって男どもと楽しそうに笑ってるし。櫻井くんなら女の子はべらすことだって可能なのに。


「じゃあ、修司呼んでみっか」


キャーという歓声が聞こえて我に返った。今、“修司”と言わなかった?どういう流れでそうなったのかはわからないけれど、あの宮川修司のことでしょう?

うっそ、マジ?デザイン科の宮川修司が来るわけ?私、ぶっちゃけ櫻井くんより宮川くんの方が好みなのよね。雰囲気も落ち着いてるし、あの王子的な顔がどストライクなのよ。長男だけど、デザイナーの奥さんも悪くないと思うの。デザイン科なんてまったく接点ないから諦めてたんだけど、ラッキーかも。


「ゼミ飲みって言ったらあいつ絶対来ないから、俺とダチ何人かで飲んでるってことで呼ぶな」


櫻井くんはそう言いながら、携帯を操作し始めた。そして何故か携帯は耳に当てずに開いたままテーブルの上に置いた。あ、拡声機能ね。何回目かのコールの後、


『……はい』


なんだか面倒くさそうな宮川くんの声が聞こえた。それだけで女の子たちはうっかりキャーと騒いでしまったが、櫻井くんの人差し指を口に当てる動作を見て慌てて口をつぐむ。


「修司、今どこにいんの?」

『なんで』

「なんでって、いつでも居場所を知っておきたいぐらい修司のことが大好きだから」


それを聞いたお嬢様たちのテンションは上がる。声を出さないよう静かに大騒ぎ。


『切るぞ』

「ああ待って!あのな、俺ね、いま学科のダチと飲んでるんだけど修司も来ないかなって」

『は?なんで俺?』

「人数少なくて寂しいから」

「修司カモン!」

「宮川来いって!」

「ほら、穂高と裕行も呼んでるし」

『……なあ、優希』

「ん?」

『なんか変なこと考えてないか?』


固まる櫻井くんと私たち。宮川くんの勘の鋭さ、半端ないわ。


「考えてない!ただ純粋に修司と飲みたいだけ!」

『…………』


考えている様子の宮川くん。お願いだから来て!私があなたと関わる最初で最後のチャンスかもしれないんだから!


「修司、ダメ?」

『今、学校出たばっかなんだけど』

「全然大丈夫!学校から近いし」

『……わかった』


ガッツポーズをする櫻井くん。私も思わず、周りのお嬢様たちと喜びの抱擁を交わした。


「じゃ、店の場所メールしとくから」

『ん』


そこで通話は途切れた。櫻井くんは安堵しながら携帯をポケットに仕舞う。




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