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浜野さんの玉の輿事情
2 / 3 「焦った。修司、勘良すぎなんだもん」 「お前日頃から修司になにやってんの?」 「なんも!ただ梨子を可愛がりすぎて文句言われるぐらいで」 梨子ちゃん。聞いたことあるな。確か宮川くんの妹さんで、ものすごく可愛い子らしいと。そして幼なじみである櫻井くんが溺愛してるらしい。 「確かに梨子ちゃん可愛いよなー。何回かしか実物見たことないけど」 「宮川くんと妹さん、仲良しだよね」 「仲良しっていうか、修司が梨子をすっげえ可愛がってて、梨子は梨子で修司大好きだし。たまに俺ヤキモチ焼いちゃう」 そうか。宮川くんとお付き合いして、ゆくゆくは結婚するのならば、妹さん攻略が最重要課題ね。 そんな風に宮川兄妹の話を二十分ほどしていたら、お店のドアが開いた。私たちはお店の奥の方に座ってるから他の皆は気付いてないみたいだけど、私は出入口に向かって座ってたから気付けた。 宮川くんは店員さんに何やら告げて、私たちの方を手で示した店員さんに軽く会釈してこっちに来た。 うわ、本物だ。どうしよう緊張する。確実に距離を縮める宮川くんは今日も素敵にオシャレだ。Tシャツの上に羽織ったジャケットは軽く腕まくりしてて、高そうなハットがこれまた似合う。足元は無造作にブーツインしてあって……イイッ!元々スタイルがいいから何着ても格好いいんだと思う。 こっちにくる途中のテーブルのOL風のお姉様方に声かけられてたけど、笑顔で軽くかわしてた。逆ナン対応も慣れたもんだ。 「あ、修司!」 「これはどういうことか説明しろ」 宮川くんに気付いてにこやかに手を振った櫻井くんに、登場するなり怒りをあらわにする宮川くん。 「何ってゼミ飲み中?」 「……帰る」 「俺、嘘言ってないから!学科のダチと飲んでるって言っただろ?」 「……ッチ、しくった。今日だったのか」 舌打ちして不機嫌全開な宮川くんを「まあまあ」と言いながら櫻井くんは強引に穂高くんと自分の間の席に押し込んだ。 あ、やられた。また男にターゲットを取られた。 「まあまあとりあえず飲めって。ここは俺が奢るから」 「当たり前だろ」 そう言いながら宮川くんは櫻井くんがグラスに注いだビールを飲み干した。 「で、なんで俺なんだよ?」 いきなり別学科の飲み会に呼ばれたらそりゃ訝しがるよね。私もよく聞いてなかったから是非とも経緯を知りたい。 「俺ら今度フットサルの大会出ようって話してたじゃん」 「そうだな」 「穂高と裕行と話してたんだよ、チーム名どうしようかって。そんで、だったら修司も呼んで話し合おうと」 「……そんだけ?」 「重要じゃね?チーム名だぜ?」 「……今じゃなくても良くないか?」 「俺らは今が良かったの」 なあ?と目配せをする櫻井くんたち経済学部組と、対称的に呆れたようにうなだれる宮川くん。なるほど。そういう理由だったのね。 「せっかく昨日出来た新作を帰ったら梨子に着せようと思ってたのに」 「え、マジで?アレできたの?!俺も見たい!そん時呼んで!」 「ぜってー呼ばねぇ」 「えぇ?!ケチ!」 妹さんに着せようとしていた服とは一体どんな洋服なのか。すごい気になる。櫻井くんが大騒ぎするお洋服とはどれだけ素敵なものなのか。 そんなこんなで、櫻井くんと宮川くんのやり取りに周りがちょいちょい加わる感じで飲み会は進んで行き、ついに一言も宮川くんと言葉を交わすこともなく飲み会終盤。 やっぱり宮川くんは最初から縁のない相手だったのかしら。だからといって櫻井くんとも縁があるとはイマイチ思えないけど。 「あのーすんません。あそこにあるピアノっていつも誰か弾くんですか?」 ちょうどドリンクを運びに来た店員さんに櫻井くんがホールの端っこにあるグランドピアノを指差した。 「ええ。週に何度かピアニストの方が弾きにいらっしゃるんですけど、今日は予定がキャンセルになってしまって」 申し訳なさそうな顔をした店員に「そうですか」と返した櫻井くんは、 「よし修司。出番だ」 「寝言は寝て言え」 宮川くんの肩をポンと叩いた櫻井くんに、間髪入れずに鋭い突っ込み。 「いいじゃん一曲ぐらい」 「イヤだ」 「皆も聞きたいよね、ね?」 一同に同意を求める櫻井くん。宮川くんは慌てて櫻井くんを押さえようとするも、みんなは手を挙げる。私も申し訳なく思いつつ挙手。結果、反対一票に対して賛成十票。 |
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