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おいかけっこ開始
1 / 2 入学式、HRも終わり高校生活初日が無事に終了した。 「みんなはこれからどうするの?」 梨子が友人たちに尋ねると、 「私はこれからすぐにレッスンなんだ」 とあさみ。 「私は比奈と楽器屋に行くけど、梨子も来る?」 「ううん、私は、」 そこまで言いかけたところで教室の外が騒がしくなった。梨子たち四人が廊下のほうを見ると、戸口には、 「梨子ー!めっちゃ会いたかった!」 ブンブンとこちらに向かって笑顔で手を振っている人物がいた。 「あぁ。保護者の方、ね」 「いや、アレはどっちかっつーと櫻井さん家の保護者の方でしょう」 ちひろのつぶやきに比奈乃はすかさず訂正を加えた。 そうなのだ。戸口からこちらに猛アピールしているのは、櫻井家次男の櫻井優希だ。 細身のスーツをスラリと着こなしてはいるが首元の第一ボタンは開き、ネクタイもだいぶ緩んでいた。 「優希!おま、馬鹿野郎!勝手に走って行きやがって!」 少し遅れて戸口から姿を見せた人物こそ、梨子の兄である宮川修司だ。 こちらも細身のスーツを着ていて、首元はきっちりとボタンもネクタイも閉まっていた。 「本物の梨子の保護者の方、だね」 「今度は間違いない」 「ていうか、優希先輩の保護者でもあるよね、修司先輩って」 ちひろ、比奈乃、あさみがそれぞれ所感を述べた。 梨子たちが中二の頃まで、高等部には修司と優希が在籍していた。 二人は中等部時代からずっと目立つ存在であったということを梨子たちもよく知っていた。 二人とも整った容姿を持ちながらも人当たりがとてもよく、そんな仲良しコンビは女子生徒たちのアイドルだった。もちろん、今でもそうだが。 たまたま廊下にいたお嬢さん方がアイドル二人組を見て大騒ぎをしている。 だが当の本人たちは長年の経験からまったく気にすることはない。 「梨子!さぁ、俺の胸に飛び込んでおいで!」 優希が梨子にあわせて少ししゃがみながら両腕を広げたので、すかさず優希の後頭部を修司が思いきりたたいた。 たたかれた箇所を両手で押さえて優希はしゃがみこんだ。そんな優希にかまわず修司は、 「アホか。何度も言うけど、梨子は俺の妹なんだよ」 “俺の”をやたら強調してさらに追い討ちをかける。 そんな二人をみて梨子は苦笑しながら二人の正面に立つ。 「っつーか、お前の保護すべきチビどもはこっちじゃなくて普通科だろうが!」 修司の言う通りである。優希は双子の保護者として出席しているのだから、居るべきは普通科棟だ。 「別にいいじゃん。入学式の写真もちゃんと三人分バッチリ撮れてたじゃんか」 入学式では修司がDVDカム片手にビデオ撮影担当、優希がデジカメを持って写真担当と分担していた。 「いや、写真はいいんだ。問題は映像なんだよ。お前の声うるさくてこっちに声すっげぇ入ってんだけど」 梨子にも入退場の時の優希の声はよく聞こえていた。 さらに修司は一旦ため息を吐いてから続けた。 「あんな騒いだら周りの親御さんに迷惑だろーが。お前、俺が何回周りに謝ったと思ってんだよ」 修司は優希と一緒に来たことをひどくに後悔していた。優希が騒ぐ度に回りにスミマセンと謝罪をしていた。 だが修司の心配もなんのその。謝られたマダムたちは容姿端麗な修司に対して頬を染めつつ、お気になさらずに、と返していたのだが。 |
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