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Greeting time gift
1 / 4 「おはよう大ちゃん!」 「おはよう梨子」 大輝の誕生日プレゼントとして約束をした日曜日。お昼より少し前に大輝は梨子を迎えに来た。 宮川邸の前に車を止めた大輝は電話で梨子を呼び出し、車の横に立って待っているとその数分後に梨子は門から小走りで出てきた。 「さあどうぞ、お嬢様」 「ありがとうございます」 大輝がドアを開けて待つ助手席へ梨子は大輝に手を借りて乗る。 「シートベルトしろよ。できるか?」 「それぐらいできるよ!」 「はは、そうか。よーし、出すぞ」 車はゆっくりと動き出した。車内には控えめな音量で洋楽が流れている。 「大ちゃんどこに行くの?」 「内緒」 数日前から梨子は大輝にリサーチをし続けていたが、大輝は一向に口を割らない。 「大ちゃんのお誕生日プレゼントなのに、私なーんもしてない……」 口を尖らせて拗ねる梨子の頭に大輝の大きな手の平が乗せられた。その手は梨子を宥めるようにポンポンと軽く頭をたたく。 「だから梨子は一緒に居てくれるだけでいいんだよ」 「でもせめてお弁当ぐらいは作って行くのに」 昨日の夜、昼前に出掛けるのならばお弁当を作ると大輝に申し出たが、その必要はないと言われてしまったのだ。 「梨子に協力してもらいたいことがあるんだよ」 「協力?」 「そう。正確には俺にじゃないんだけどな」 頭にはてなをたくさん浮かべて首を傾げる梨子に大輝はクスッと笑った。 * * * 車は出発してから三十分後ぐらいに止まった。そこは普通の駐車場だった。 「ここから少し歩くけど、いいか?」 「うん!」 大輝が先に車を降りて反対側に回って助手席のドアを開けた。梨子は大輝の差し出す手に自らの手を軽く乗せてピョンと車から飛び降りる。 大輝と梨子は当たり前のように手を繋いで歩き出した。駐車場を出て一本先の道に出ると、そこは多くの人が行き交う大通りだった。 しばらく大通りを真っ直ぐ歩き、いくつか信号を渡ってから一本横道に入ると、そこには一軒のお店があった。 「ここ」 「ここ?」 大輝が指差すお店はカフェのようだった。そのドアを開けるとチリンとドアベルの音がした。大輝に促され、梨子は店内へと足を踏み入れる。 「いらっしゃいませ。二名様ですか?」 「えっと、」 「羽柴さん、いらっしゃいますか?」 女性店員に声をかけられ、梨子が答えようとする前に大輝が後ろから店員に問い返した。 「羽柴でございますか?」 「櫻井と言っていただければわかります」 「かしこまりました。少々お待ちください」 「お、大輝。待ってたぞ」 店員がバックヤードへ戻ろうとしたちょうどその時、一人の無精髭を生やした男性が現れた。年齢は四十代後半ぐらい。上はワイシャツの袖を無造作に捲り上げ、首元は第二ボタンまで開いている。下は黒いスラックスに革靴。 「羽柴さん」 「オーナー!フロアに出る時はちゃんとした格好して下さい!」 「固いこと言うなよ。ここはあっちのホテルの店じゃねんだから」 梨子は羽柴という男性のくだけた態度を見て唖然とした。そんな羽柴と梨子の目が合うと、羽柴は一瞬腰をかがめて梨子に目線の高さを合わせるとニカッと笑った。そしてすぐに大輝と向き直る。 「大輝、随分と可愛い子連れてんじゃねぇか」 「可愛いでしょう?俺の自慢なんですよ」 大輝はポンと梨子の肩に手を置く。梨子は自慢と言われ、照れ臭さから軽く頬を染めながら大輝を見上げると、大輝は優しく微笑んだ。 「櫻井んとこは女の子いなかったよな。妹じゃないなら……彼女か?」 「さあ、どうでしょうね」 「あ、あの……」 「ったく、こんな可愛い彼女とか生意気だな、お前」 羽柴は完璧に勘違いをしているが、大輝は訂正を加える気はなさそうだ。梨子は困惑気味に大輝を見たが、大輝は梨子を見ながら人差し指を口に当てた。どうやらここでは梨子は大輝の恋人設定で通すらしい。 「まぁそう言わないでくださいよ。ちゃんと若い女の子連れて来たんですから」 「それは感謝するよ。さて、立ち話もなんだからコチラへどうぞ。あ、アレ準備しておいて」 羽柴は店員に何やら指示を出す。イマイチ二人の話を梨子は理解しきれなかったが、羽柴に案内されて店の奥へと入っていく。 店内はレトロな雰囲気で、流れるBGMはジャズ。狭くはないが広くもない店内には男女半々のお客さんがいた。女性のみのグループ、男性のみのグループ、カップルなど客層は様々。 通されたのは店の奥の席。席に座った梨子に羽柴は名刺を差し出した。 「どうも申し遅れました。オーナーの羽柴です」 「こちらこそ!宮川梨子です」 梨子は慌てて立ち上がって、両手で名刺を受けとった。深々と二人でお辞儀をしあい、羽柴に促されて梨子は再び椅子に座る。 「大輝の親父は古い友人でね」 「誠パパの?」 「……誠パパ?」 梨子の言葉に羽柴は眉間に皺を寄せたかと思うと、ゆっくりと大輝を見る。 「お前、もう彼女を親にも紹介済みなわけ?」 「親父は梨子のこと娘同然可愛がってますよ」 「そりゃ、息子が五人っていうむさ苦しい中でよ、いきなりこんな可愛い娘ができたら嬉しいだろうよ」 梨子は黙っていていいものか考えていた。確かに大輝は全く嘘はついていないのだがなんとなく落ち着かない。 |
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