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新しい日々のはじまり
1 / 3 「髪の毛よーし。リボンよし。スカートよし。靴下……穴なし!」 全身鏡の前に立ち、身なりをチェックしている小柄な少女。小さな顔と長いまつげに縁取られたパッチリと大きな目が印象的だ。 このおそろしく可愛らしい少女は宮川梨子、15歳。本日より英聖学院大学附属高校音楽科に進学する。 コンコンッ 準備を整えて鞄の中身をチェックしていると部屋のドアがノックされた。 「どーぞー」 適当に返事を返すと、すぐに扉が開き、 「もう出られる?」 非常に可愛らしい整った顔立ちの少年が部屋に入ってきた。梨子の着ている制服と同じ、英聖学院大学附属高校の制服を着ていた。 「うん!もういいよ」 「じゃあ、もう行こーぜ」 先ほどの少年の後ろからもう一人少年が部屋に入ってきた。二人の少年はほとんど同じ顔をしていた。双子だ。 「そうだ梨子」 「ん?」 先に入ってきた少年に呼ばれてコテッと首を傾げた梨子。 「高等部の制服、すっごい可愛いよ」 「本当?ありがとう、蒼ちゃん!二人もすっごいかっこいいよ。お兄さんってかんじがするよ」 梨子に蒼ちゃんと呼ばれた少年、櫻井蒼輔(サクライ ソウスケ)は満足そうに微笑んだ。 「まぁ、お前よりは年上に見えるだろ」 「隼ちゃん、それどーゆー意味?!」 「まんまだろ」 櫻井隼輔(サクライ シュンスケ)の言葉に梨子はプクゥッと頬を膨らませて隼輔を睨んだ。そんな二人を見て蒼輔は困ったように苦笑する。 櫻井家の双子、隼輔と蒼輔は見た目こそ似通っているが性格は正反対であった。 身内や学内の人間には「静と動の双子」と呼ばれており、「動」である兄の隼輔はどちらかというと活発的でいつも梨子をからかって遊んでいる。 見た目の特徴としては、可愛らしい容姿に長くもなく短くもない黒髪をワックスで軽く毛先を遊ばせており、目元は少々強気な印象を受ける。 「静」である弟の蒼輔はいつでも紳士的な態度を崩さず梨子を優しく見守っている。 こちらも双子というだけあり隼輔と基本は同じ容姿で、隼輔より少し長さのある髪の毛がゆるめのパーマによってふわっと揺れた。柔らかい笑顔は温和な印象を与える。 そして、二人に共通するのは顔だけではなく、どちらも梨子をとても大切に思っていること。 「ほら二人とも。もう出よう?ね?」 「はぁい」 「おー」 蒼輔に促されて部屋を出た三人は宮川邸のエントランスへ向かった。 お手伝いさんたちに見送られて玄関を出ると、そこには一台の高級車。 「おはようございます、梨子お嬢様」 「おはようございます、神山さん」 梨子たちを出迎えてくれたのは櫻井家の運転手である神山(カミヤマ)だった。神山は長年櫻井家に仕えるベテラン運転手だ。双子や梨子たちのことは幼い頃からずっと成長を見守ってきた。 櫻井邸と宮川邸はお向かい同士に立地しており、自邸の門を出て数メートル歩けばもうそこはもう一方の邸宅の門がある。 そんなわけで櫻井家と宮川家の子どもたちは小さい頃から兄弟のように共に育ってきた。とりわけ双子と梨子は年齢が同じということもあり一際仲が良かった。 小学生のころから学校もずっと同じなので、どちらかの家の車で共に登校しているのだ。今日は櫻井家の車で登校する日だ。 梨子を挟むようにして三人は車に乗った。 「今日、修ちゃんと優ちゃん二人で来てくれるんだってね」 「そうなんだよ。お兄ちゃん今日わざわざスーツ着て学校行ったもん。『ぜってぇ大学で目立つ』とか言いながら」 「優ちゃんもスーツ着てったぜ」 修ちゃんは梨子の兄である宮川修司(シュウジ)のことだ。英聖学院大学に通う二年生である。 両親が海外を飛び回っているため、もっぱら梨子の親代わりとして活躍中。今日の入学式も海外にいる両親の代わりに出席するのだ。 優ちゃんは双子の兄であり、櫻井家次男である櫻井優希(サクライ ユウキ)のことだ。修司と同じく英聖学院大学の二年生。 母親が双子の幼い頃になくなり、父親も仕事で多忙なため入学式には代理出席することになっていた。 ちなみに櫻井家は双子を含めて五人兄弟だ。優希の上に一人。双子と優希の間にもう一人兄がいる。 修司と優希も同じ年齢ということで他の兄弟たちよりは一緒にいることが多くとても仲が良い。 入学式が午後からのため、午前中から講義のある修司たちはやむなくスーツを着たまま学校へ行った。そして講義終了後にそのまま高等部の入学式へ向かう予定なのだ。 |
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