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柔らかな陽射しと共に
3 / 3 「ここ、気持ち良いな」 大輝は優希のように身体を横向にしながら、大きな手の平で梨子の頭を撫でた。 「うん。たまにはこういうのも良いっしょ」 「そうだな。あー、俺も眠い」 「はい、おやすみ」 「おやすみ」 大輝が仰向けになってからしばらくして寝息が聞こえてきた。 「平和だねぇ……。そうだ。修司も呼び戻しちゃれ」 優希は携帯電話をポケットから取り出し、今日はどこかへ出掛けると言っていた修司にメールを送った。 『今すぐウチの中庭集合!』 そしてさらに二十分後、 「優ちゃん。これ何やってんの?」 部活帰りのため制服姿でエナメルバッグを肩から下げた隼輔が、優希たちの傍らに訝しげに眉をひそめて立っていた。 「おかえり、隼。何って……お昼寝。俺はただのひなたぼっこだけど」 「なんで梨子がいんの?」 「俺が連れてきた。これは『梨子に休んでもらおうの会』だから」 「はあ?」 隼輔の眉間の皺が余計に深くなった。そんな隼輔を余所に優希は続けて、 「ちなみに会長は俺な。あ、でもそしたら修司は……終身栄誉会長とかでいっか。とにかく会長は俺!」 「いや、そういうのはどうでもいいから」 「どうでもいいって。まあいいや。とりあえず隼も寝れば?」 「うん。だから優ちゃんそこどいてくんない?」 いつのまにか鞄を芝の上に放り投げ靴を脱いでいた隼輔は上から優希を見下ろしていた。 「むり。梨子の隣は早い者勝ちだ!」 「……ッチ」 隼輔は舌打ちをしてぶつくさ言いながら梨子の頭側の向かいに俯せに寝転んだ。しばらく梨子の寝顔を見つめていると、 「なあ、隼」 「なに?」 「やっぱり梨子は可愛いよな」 「か、かわっ…………まあな」 珍しく隼輔が素直に同意したことに優希は多少驚きながら、 「寝ないの?部活ハードなんだろ?」 「寝るよ。すっげえ疲れた。おやすみ!」 「はい、おやすみー」 またさらに二十分後、 「面白い光景だね」 「おー、涼!おかえり。これは『梨子を休ませようの会』」 出掛けていた涼が戻ってきた。涼は珍しい光景に目を細めながら、 「ただいま。そっか安心した。梨子、気持ち良さそうに寝てるね」 「兄貴も隼もな」 「優ちゃんは寝ないんだ?」 「俺?俺はなあ、寝ないつもりだったけど、このポカポカ陽気のせいでそろそろやばい」 当初は存分に梨子の寝顔を堪能しながら、気温が落ちる前に梨子を起こす予定だったのだが、このなんとも心地好い陽気に限界を超えかけていた。 「俺、起こしてあげるから寝てたら?」 「涼は?」 「そうだな……梨子と一緒に寝るのも捨て難いけど、せっかくだし、お茶しながらあの可愛い寝顔をじっくり味わっておくことにするよ」 そう言いながら涼は眠る梨子を愛おしそうに見つめた。 「じゃあ後は頼む。おやすみ」 「おやすみ」 そしてまたまた二十分後。部活から帰ってきた蒼輔が涼の元へやってきた。 「なんだか楽しそうだね」 「おかえり、蒼」 「ただいま涼ちゃん。ね、これどしたの?」 「梨子を休ませようの会」 「え?」 「優ちゃんがそう言ってた」 蒼輔は「なにそれ」と言って笑うと、 「せっかくだから俺もその会とやらに参加しようかな」 そう言いながら隼輔の隣に座りこんだ。そして、至極優しい眼差しで梨子を見つめながら、 「ゆっくり休んでね、梨子」 蒼輔は一度だけ梨子の頭をふわりと撫でた。それからゆっくりとその場に寝転び、涼に向かって手を振りながら、 「それじゃ、おやすみ涼ちゃん」 「おやすみ、蒼」 涼は新しく入れたばかりの紅茶を一口飲んだ。そして日が落ちるまで、この穏やかな空間を満喫していようと決めた。 その十五分後。兄弟たちと梨子の微笑ましい光景を見ながら一人優雅にティータイムを過ごしていた涼の元へ修司がやって来て、 「このやろう、寝てんじゃねえか」 人を呼び付けておきながら自分はすやすやと気持ち良さそうに眠りこけている優希を見て、修司は怒りを通り越して呆れた。 「おかえり、修司くん」 「ただいま。なあ涼、なんでみんな寝てんの?」 「梨子を休ませようの会」 「は?」 「だって優ちゃんが言ってたよ」 一瞬眉根をひそめた修司だが、すぐに優希の意図に気付き、 「サンキューな……優希」 ぽそっと気持ち良さそうに眠る優希に向かって呟いた。 「修司くんはどうする?」 「え?」 「あっちで昼寝組に混ざる?それともここでお茶する?美味しい紅茶があるんだけど」 「お茶にするかな」 「わかったよ。ちょっと待ってね」 新しい紅茶をいれる涼にお礼を言いながら修司は鞄から取り出したデジカメを眠る五人へと向けた。 「面白いから撮っておくか」 そんなよく晴れた春の日の出来事。 柔らかな陽射しと共に (2010/06/28-2010/08/18) |
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