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(C)Yuuki nanase 2010 - 2013



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Stand by you.
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「最近梨子がウチに来ないから寂しかったんだよ」
「ご、ごめんね。いつも家に帰ったらずっと練習室にいるの」
「うん。知ってる。でも、こうして今日は梨子に会えたから良かった」

梨子を抱きしめる腕を少しだけゆるめて、優希は梨子と顔を見合わせる。

「優ちゃんに会えて私も嬉しい!」
「あーもー!梨子可愛い!大好きだよ!……ちょ、あぁっ!」

梨子を抱きしめながらテンションMAXに達しようとしていた優希の腕から、梨子がいなくなり、優希は不満そうに梨子を奪った張本人である修司を睨む。

「修司!」
「そろそろ出なきゃいけない時間だったし。梨子、乗って」
「うん!」
「優希は……」
「乗るって!」

嫌な予感がした優希は修司に何かを言われる前に助手席へと乗り込む。そんな優希の反応に笑いをこぼした後、修司も運転席へと乗り込んだ。

* * *

学内オーケストラの初練習は楽譜の通し練習から始まった。

序曲と交響曲は出番のない梨子は他の出番待ちメンバーと共にホールの端で椅子に座り見学をしていた。

序曲はすでに終わっており、今はシベニ、シベリウス交響曲第二番の通しを行っている最中だ。

「音程!」

通しなのでよほど続行不可能状態にならない限りは曲は止めない。しかし、さきほどから指揮者である恵介の指示は容赦なく飛んでいた。

「おら!周りの音をちゃんと聴け!」

口調の荒さはいつもと変わらないものの、普段は比較的無口な恵介がこんなに熱い人物へと変貌していることに梨子たち高等部組は驚きを隠せないでいた。

「フレーズの意味をもっとよく考えろ!……っ、おいコンバス!音程!」

しかし、この実力派の集まった学内オケを率いてきただけあって、その指示の的確さと耳の良さはレベルが違う。
梨子はこの中に自分がソリストとして加わることを楽しみだと思ったのと同時に、このオケと対等に渡り合うことができるのかという不安が大きくなり、その不安を払拭するかのごとく手を強く握り締めた。

そしてついに第一楽章から第四楽章まで、およそ四十分におよぶ演奏が終了した。途中で空中分解しかけながらもなんとか最後まで演奏することができたことにメンバーたちは安堵のため息を吐いた。

一方、恵介の表情は安堵とはほど遠い。眉間には深い皺が刻まれている。

「言いたいことはいっぱいあるけど、細かいことは本格的な練習に入ってから言う。とりあえずはさっき通しの間に言ったことをよく考えておくこと。キリ良いから、今から十五分休憩。そのあとすぐチャイコンの通しに入る」

緊張感たっぷりだったホール内の空気が一瞬にして緩む。無意識にピンッと伸びていた梨子の背中も休憩に入ったと同時にゆっくりと力が抜けていった。

さきほどの通しで気になった部分をメモしているのだろう。休憩に入っても恵介は険しい顔をしたまま楽譜と向き合っている。そんな恵介のもとに大学メンバーが数名やってきて何やら相談をしているのを梨子はただただ眺めていた。

「梨子ちゃん?どうしたの?」

ボーッとしていたところに名前を呼ばれて梨子は引き戻された。

「あ、遥くん」

椅子に座っている梨子に目線を合わせるように床に片膝をついて梨子の顔を覗き込んでいた遥は、ようやく梨子が反応したのを見て微笑んだ。

「なんだかぼーっとしてたみたいだけど、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。なんだかね、びっくりしちゃったの」
「びっくり?」
「うん。二葉先輩が、すごいなって」
「ああ。確かに僕も驚いたよ」

序曲と交響曲の両方にメンバー入りしている遥も恵介の豹変ぶりに驚きを隠せないでいた。最初はもの静かで冷静な印象だった。顔合わせの時に梨子のソリストの件で爆発したこともあったが、それ以外はほとんど冷静さを保っていたからだ。それがまさかこんなに変わるとは思ってもみなかった。

「これぐらいはまだまだ可愛い方だよ」
「潤先輩!」
「塚本先輩」

気付けば遥の隣にはいつもニコニコ顔の潤が立っていた。

「二人ともお疲れ様。今日は恵介も結構言葉を選んでる方だよ。初練習だし、高等部組に多少は気遣ってるんじゃないかな。いきなり自信喪失されたら困るしね」
「そ、そうなんですか?」

潤の言葉を聞いた梨子は、本当にこのオケでソリストとしてやっていけるのかという不安が尚更大きくなった。

「次回以降はガッツリ檄が飛ぶと思うけど。今日はただの熱い指揮者で頑張るつもりなんだと思うよ。……あ、そんな心配しなくても大丈夫だよ!俺達もゲスト選ぶときにはこの中でちゃんとやっていけるぐらい実力のある子だけを選んだつもりだから」

だから安心していいよ、と言いながら潤は梨子と遥の頭を撫でた。すると遥は少し照れながら、

「僕、頭撫でられたのなんて何年かぶりです」
「俺も男の子の頭撫でたのなんてかなり久しぶりだよー。ウチってば女系家族な上に俺末っ子なもんだから。あ、恵介も三人兄弟の末っ子でね、男兄弟の中で育ったもんだからあんなに口悪くなっちゃって」

まったく困ったもんだよね、と言いながらも潤は困ったような様子はなく、逆に楽しそうに笑っている。

恵介と潤。二人は全く性格が異なるが、このように真逆の性格の二人が一緒にいることでオケメンバーを率いるために上手いことバランスが保たれているのだ。

「よーし休憩しよう!ここにずっと居たら息詰まっちゃうよ。廊下にソファーあるからそっち行こう、ね!」

梨子と遥は潤に背中を押されながらホールから廊下へと出る。少し歩いた場所には休憩スペースがあり、いくつかあるソファーにはリラックス状態のオケメンバーたちがいる。

「あれー、コンマスってば両手に花じゃん。若い子はべらせちゃってさ」
「いいだろー?俺も若返った気分」

梨子たちに気付いたササに指摘されて潤は梨子と遥の肩を抱いてアピールしてみせる。

「宮川さんと天宮くんこっち空いてるからおいで!」
「は、はい!」
「ありがとうございます先輩」

梨子と遥は大学の女子メンバーが呼んだ場所に礼を言いながら並んで座った。

「ねぇ俺は?」
「コンマスはね、みやもっちゃんあたりが交代してくれると思うよ」
「あ、本当?ありがとうみやも」
「いやいや、ササも潤も何言っちゃってんの?……まぁ、いいよ。俺一服してくっからここ譲るよ」
「サンキューみやも!」

喫煙室へと入っていたみやもの座っていた場所に潤が座る。潤が座ったのは梨子と遥がいるソファーと背もたれを合わせて置かれているソファーだ。





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