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(C)Yuuki nanase 2010 - 2013



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ココロに触れて
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「はじめまして天宮です」
「……えっ?!」

梨子の記憶の中に天宮という名前の人間は一人だけいたが、その人物とは大きく異なる点がある。性別だ。だとすると彼はまた別の天宮さんなのか、など思案していたところ、そんな梨子の様子を見て彼は何かを察したようで、

「もしかして知らなかったかな?僕、宮川さんと一緒にオケ出ることになったんだけど」
「あっ!はるかちゃん?!」
「え?」

こんどは彼が目をパチパチと瞬かせる。相手が当惑していることに気付いた梨子は慌てて口元を両手で覆った。

「もしかして、僕のこと女の子だと思ってた?」

梨子がコクッと頷くと彼は怒るどころかふわりと微笑んだ。

「ひょっとして、“はるか”くんじゃなくて“よう”くんだった?」

梨子は恐る恐る尋ねた。“遥”という字は複数の読み方があるのだが梨子は“はるか”だと思いこんでいた。

「“はるか”で合ってるよ。改めまして、あまみやはるかです。正真正銘男です」
「宮川梨子です」

二人は、よろしくお願いしますと言ってお互いにペコリとお辞儀をした。

「ほ、本当にごめんなさい。私てっきり……」
「いいよ。よく間違われるんだ。こんな紛らわしい名前だからね」
「でも、素敵な名前だと思うよ!ね、遥くん!」

そう満面の笑みで言った梨子を見て遥は目を見開いた。それを見た梨子は何を勘違いしたのか慌てはじめた。

「あ、ご、ごめんなさい!いきなり名前で呼んじゃった……」

小さくなった梨子を見て遥はクスッと笑うと、梨子の頭を優しく撫でた。

「全然かまわないよ。むしろ嬉しいな、梨子ちゃん」

遥の言葉を聞いて梨子は嬉しそうに笑った。遥はまじまじと梨子を見つめる。

「噂には聞いてたけど」
「ん?」
「梨子ちゃんがまさかこんなに可愛い女の子だったなんてね。今まですれ違いもしなかったからなぁ」
「かっ、かわ……!そ、そんなに褒めても何も出ないからね!」

そう言いながらもブレザーのポケットを上からパタパタと叩いた梨子は何かを見つけ、ポケットの中から飴を一つ取り出した。

「いっこアメちゃんがあったよ!だからこれはお礼ね!」

梨子は遥の手をとって彼の手の平にリンゴ味の飴を一つ乗せた。しかし、じっと手の平の飴を見つめたまま遥が動かないため、心配した梨子は彼の顔をぞきこむ。

「もしかして、甘いもの嫌いだった?」
「ううん。好きだよ、ありがとう」
「うん!」

遥は理解した。多くの人間が彼女を見て騒ぎ、そして好意を寄せる理由。見た目の可愛らしさ以上に人を魅了するものを梨子は持っているのだ。

「僕も好き、かもしれない」
「うん、リンゴ味のアメちゃん美味しいよね!」

遥が思わず口に出したのは飴のことではないが、彼は敢えて訂正せずに微笑みでごまかした。

「ねぇ、梨子ちゃんは彼氏いるの?」
「か……かれ、し?」
「うん。お付き合いしてる人」

いきなり至極真面目に遥は問い掛けた。一方梨子は予想外の質問にどんどん頬が赤みを帯びていく。

「まさか!わたしなんて、いつもチビとかガキとか、あと甘えっ子とか言われてるし……」

チビとガキは主にというか百パーセント隼輔に、甘えっ子は年上組によく言われている。しかし梨子に甘えられて全く嫌そうではなく、寧ろ嬉しそうにデレデレしているのだが。

「すっごいこどもっぽいから、だからね、そんな、かれしなんて……いないよ?」

恥ずかしそうに答える梨子に遥は胸が高鳴るのを感じた。何故なら、どストライク。梨子の顔立ちはもとより、小柄で小動物系な女の子は遥の好きなタイプど真ん中だった。

遥は高まるテンションを抑えつつ梨子の頭をポンポンと軽く叩いた。

「僕は梨子ちゃんみたいな女の子が彼女だったらいいなと思うよ?」
「遥くんは優しいね。ありがとう!」

軽くアピールしてみたが、残念ながら梨子には全く伝わらなかった。遥は苦笑いを浮かべる。

「遥くん。あのね、お願いがあってね」
「可愛い梨子ちゃんのお願いならなんでもきくよ?」
「は、遥くん!」

梨子は照れたように少し俯いた。

「それで、どんなお願い?」

遥は俯いた梨子に目線を合わせるように少し腰をかがめた。

「あの……あのね、明日の顔合わせね、一緒に行ってもいいかな?」
「それは全然構わないよ」

安心したのか梨子の表情が一気に明るくなる。遥も梨子に釣られて微笑んだ。

「よかったぁ。知らない人ばかりのところに一人で行くの不安だったの」
「確かにそうかも。じゃあ明日の放課後、僕が梨子ちゃん迎えに行くから教室で待っててくれる?」
「わかった待ってるね!」
「うん。そしたら僕はこれで戻るよ。今日のうちに梨子ちゃんに会えてよかった」
「私も!」

お互いに手を振って二人は別れた。梨子に見送られてC組へと戻っていく遥の表情は楽しそうだ。

「散々迷ってたけど、日本に帰ってきてよかった」

遥は高等部入学前、海外から日本へ戻るかどうかを迷っていたが、あの時に戻るという決断を下した自分を褒めてやりたいと思った。

「(予想以上の収穫があったしね)」

遥の脳裏をかすめたのは、梨子の姿。





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