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Greeting time gift
3 / 4 「さて、どうだった?」 二人の食事が終わった頃合いを見計らって羽柴と榊がやってきた。食後に出されたコーヒーとオレンジジュースをそれぞれ飲みながら思ったことを素直に伝える。 「俺、ご飯はもう少し味薄い方がいいです。パイの中のハンバーグの味がしっかりしてるし」 「なるほどな。それはスタッフの間でも意見別れたんだよなぁ」 メモを取る榊の傍らで羽柴が考えるように頭をかいた。 「梨子ちゃんは?なんでも気になったことがあったら聞きたいんだが」 「あの、私は……すっごく美味しかったです。ただ」 「ただ?」 「ただ、パイの形が……」 「形?」 よほど予想外の視点だったのか、羽柴だけでなく榊や大輝まで梨子をまじまじと見つめる。 「四角よりも三角の方が食べやすいのかなって思ったんです。角がとがってる方が一口サイズにしやすいし、女の子は、あまり大きな口開けて食べるの抵抗あるから……。特に好きな人の前でとか……」 「なるほど。女の子ならではの目線ですね」 「榊は気付かなかったのかよ」 「私、ある人によると女の子じゃないみたいですから」 羽柴に憎まれ口を叩きつつ、梨子の意見をメモしていく榊。 「なるほどなぁ。形、か」 「貴重な意見でしたね」 「大輝、梨子ちゃん、ありがとな」 「とんでもないです」 「こちらこそ、ありがとうございました。すっごく美味しかったです!」 笑顔で軽く頭を下げた梨子に羽柴は笑って「また頼むよ」と告げた。 「そうだ大輝、弟たちは元気なのか?」 「元気です。今日も全員出掛けていきましたよ」 優希は修司とフットサルをしに、涼、隼輔、蒼輔はそれぞれ部活動のため日曜日だというのにも関わらず学校へ。 羽柴と大輝が世間話をしていると、梨子と榊が二言三言交わしたすぐ後、席を立った梨子は「ちょっと失礼します」と言って鞄を手に榊の指し示した方へ歩いて行った。 「なあ大輝」 「はい」 「好きなやつの前では大きい口開けて飯食いたくないんだと」 「女の子はそういうもんなんじゃないですか?」 「いじらしいじゃねえか。愛されてんなぁ、お前。羨ましいったらねえわ」 羽柴は腕を組ながら一人納得したように大きく頷いた。 「俺も梨子のことはものすごく大事にしてるつもりですよ」 平然と言ってのけた大輝に羽柴は目を丸くしたが、すぐに楽しそうな笑顔に表情を戻した。 「大変だろ?」 「何がですか?」 羽柴の言葉の意味がわからずに大輝は首を傾げた。 「彼女が可愛いすぎるっていうのも考えもんだな」 「ああ。そういうことですか」 「さっきからお前ら目立ってんぞ」 店内の他の客から二人に対して注がれる視線には大輝も当然気付いていた。大輝も大輝で目立つ容姿をしているため女性客からの熱い眼差しがチラチラと送られている。 「俺らが目立っている原因の半分は羽柴さんにもあると思うんですけどね」 「あ?」 「何者だかよくわからない人が頻繁に現れるテーブルなんて目立つに決まってますよ。それに店長さんまでいるんですから」 店の人間がほぼ付きっきりで対応しているテーブルがあれば、誰でも気になるに決まっている。店長は申し訳なさそうに苦笑した。 「そういえば、裏でもスタッフが騒いでましたよ。梨子ちゃんが可愛いだとかタイプだとか」 「いつものことですから」 そう、いつものことなのだ。梨子が他の男たちに騒がれるのなんて。 「ちょっと聞こえちまったんだけど、さっきそこの野郎ばっかの客がすげえこと言ってたぜ?」 羽柴が突然声をひそめて大輝に耳打ちする。榊にも聞こえないほど小さな声で。 「なんとなく想像はつきますよ」 「なんだよ。言わなくていいのか?」 「どうせ下世話な妄想話でしょう」 「アタリ」 梨子と出掛けると、ごくたまに外野の非常に許しがたい内容の会話が耳に入ることがある。致し方ないことではあるが、そういう欲望の対象として梨子が見られるのは非常に腹立たしい。反吐が出そうだ。 「えと、ただいま?」 不穏な空気が流れる中に梨子が戻ってきた。どういう風にそこに入ったらいいのか本人も悩んでいたのか、語尾は何故か疑問形だった。 「おかえり梨子。もう出てもいいか?」 「え、うん。私は大丈夫だけど」 「もう行くのか?」 「次に行くところがあるんで」 「そうか。また来いよ。梨子ちゃんもな」 「絶対に来ます!ごちそうさまでした」 大輝と梨子は軽く羽柴と榊に会釈をしてから店を出て言った。途中、羽柴が話していた“野郎ばっかの客”のテーブルの横を通り過ぎる瞬間、大輝は見せ付けるように梨子の肩を抱いて引き寄せた。それを見ていた羽柴は、 「若いねえ、実は結構腹立ってたんじゃねえか」 と呟き、それを聞いていた榊は意味がわからず首を傾げた。 |
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