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(C)Yuuki nanase 2010 - 2013



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新しい日々のはじまり
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「あの、りょ、涼ちゃん?」
「ん、なに?」

梨子にしてみればいまだに鼻先をくっつけたままの格好が恥ずかしいのだが、涼にとってはなんでもないらしい。いまだに微笑みは崩さない。

どうしたら開放してもらえるかグルグル頭の中で考えていると、

「涼ちゃん。近い」

そんな声が背後から聞こえたと思うと、梨子の体はひょいっと宙に浮いて涼から離れた。

「隼ちゃん……」

隼輔は梨子を両脇の下に手を入れて持ち上げている。梨子の両足は地面につくことはなくプラプラと揺れた。

「ごめんごめん。あまりに梨子が可愛すぎて」
「それにしても近すぎ」
「隼もそんなに怒ることないじゃない。ねぇ?」

不機嫌さをあらわにする隼輔に対して、涼はそんなに悪びれる様子もなく飄々としていた。

「あのー隼ちゃん?」
「なんだよ?」

隼輔に持ち上げられたままの梨子が隼輔の名を呼ぶと、あからさまにピリピリした反応が返ってきた。

「もう、下ろして大丈夫だよ?」
「ん?あぁ。わり」
「ううん。ありがとう」

梨子がニコニコ笑ってみせると隼輔の不機嫌オーラが何割か和らいだ。

「隼輔、梨子。もう教室に行こう?」
「あわわ。じゃあね、涼ちゃん!」
「はい。行ってらっしゃい」

今度こそ涼に見送られて三人は校舎へ入った。

* * *

玄関で靴を履き替えた後、梨子と双子もそれぞれの教室へ行くために別れた。

別れ際、

「じゃあね、梨子。気をつけてね」
「迷子になんなよ」
「なりません!」

こんなやりとりをした。

音楽科は南棟、普通科は北棟にそれぞれの教室と施設がある。

一階にある玄関、体育館、食堂は各科が共通して利用する施設で、その他は各科で分かれている。

各科にほとんど交流はなく、それぞれの棟を行き来するものは少ない。

例外として生徒会室と委員会などで使用する会議室、そして図書館だけは普通科校舎にあり、普通科と音楽科両方の生徒が使用している。

各棟とも一年生は三階、二年生は四階、三年生は二階に教室がある。

梨子は三階の廊下を歩いて自分の教室を探したが、階段のすぐ隣にあったため、すぐに見つかった。

ドアに貼られた座席表で席を確認する。並びは男女一括の出席番号順だ。

教室に入るといくつか見知った顔を見つけた。

「あ、おはよう梨子ちゃん」
「おはよう、あーちゃん。同じクラスだったんだね」

声をかけてくれたのは中等部時代からの友人である長沼あさみだった。通称あーちゃん。いつもふわふわニコニコしていて梨子はあさみの笑顔が大好きだった。

「うん。また一緒でうれしいな」
「私もうれしい!」

仲の良い友人と同じクラスだと非常に心強いものだ。

「さっきね、広場でちーちゃん見たよ。ちーちゃんもクラス一緒で嬉しいよね」

ちーちゃんとは、中等部時代からの梨子の親友である夏目ちひろのことである。ピアノ専攻。梨子が学内で演奏するときには大抵ちひろが伴奏を務めてくれている。

「え、そうなの?!」
「あれ、梨子ちゃん掲示板見なかったの」
「あっと、あの、えっと、急いでて自分のしか見てなかったの」

ここで真実を喋ってしまってはどういう経緯で隼輔に伝わってしまうかわからない。梨子はとっさに掲示板を見ていない言い訳をした。

「そっかぁ。比奈ちゃんも同じクラスだからね、またみんなでお昼ご飯とか食べれるね」
「そうだね!」

比奈ちゃん、西原比奈乃も中等部からの友人だ。梨子と同じヴァイオリン専攻。

梨子、ちひろ、あさみ、比奈乃は中等部の頃から大抵4人で行動してきた仲良しグループだ。

双子や涼が割りこんでこない限りは平和に過ごしている。

ちひろたちは櫻井兄弟だけでなく梨子の兄・修司の妹への溺愛っぷりをよく知っている。

知った上で「梨子もたいへんだねー」と暖かく見守っているのだ。

比奈乃曰く、「たくさんのイケメンに愛されるのは夢のような話だけど、あそこまで過剰な溺愛はぶっちゃけ無理」だそうだ。

「あら。あーちゃんと梨子だ。おはよう」

出入り口付近に立っていると、背後から声をかけられたので振り返るってみるとちひろがいた。

「あ!ちーちゃんおはよう!」
「おはよう。今ね、梨子ちゃんとみんな同じクラスで嬉しいねって話してたんだよ」
「ラッキーだったよね。もうすぐ比奈もくるよ。ほら来た」

ちひろが廊下を振り返るとすぐに比奈乃もやってきた。

「おはよー」

梨子とあさみは、おはよう、と声を揃えた。

「ねぇ、梨子」
「なに、ちーちゃん?」
「さっき広場でものすごい目立ってたね。涼先輩と」
「え?!ち、ちーちゃん、アレ、見てっ……」

梨子は先ほどの出来事を思い出して再び顔を赤くした。

「梨子ちゃん、何かあったの?涼先輩と」
「私も見てたよ。すんごい悲鳴上がってたよね」
「そりゃあね。公衆の面前で鼻先チュウしてりゃねぇ。あの涼先輩と」
「あ、あれは……」

梨子は心の中で涼ちゃん!と非難するように叫んだ。

「えー見たかったなぁ。早く教室来なければ良かった」

口を尖らせるあさみに対して、梨子はせめて目撃者は一人でも少ないほうがありがたいと思った。

「でも涼先輩もやるわぁ。ぬかりなしって感じ?」

そう言いながらちひろは苦笑した。

「え、ぬかり……ってどうゆうこと?」
「だから、つまりは外部から来た新入生への牽制でしょ?」
「へ?牽制?なにソレ?」
「うん。梨子はわからなくていいんだよ。私たちもできるだけ頑張るからね」

そしてちひろに頭を撫でられた。梨子は自分だけ蚊帳の外のようで少しだけ不満だった。

「まぁ、私たちが頑張らなくても、櫻井さん家の双子くんたちが棟越え学科越えてやってくるだろうけどね」

あさみがふふっと笑った。

「さて、そろそろ着席の時間だよ」

比奈乃が教室の時計を確認する。そろそろHRの時間だ。

色々不安はあるが、こうして高校生活はスタートしたのだった。


新しい日々のはじまり


これからキラキラした毎日がまってる。

 
勢いで連載スタート
(2010/03/24-2010/04/01)




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