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10000hit記念祭
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「そんなに言うんだったら、別れるか」 「……え?」 「そんなに俺のこと信用できないんだったら、理沙子が辛いだけだろ」 「ちょっと待って、真幸(マサキ)」 「もう終わりだな、俺ら」 突然やってきた別れ。久しぶりに会えたのに、私が不安を口にしたばっかりにこんな結果になってしまった。 違うの。違うんだよ。私が望んでいたのはそんな言葉じゃないんだよ。 一人残された公園のベンチで、私は涙をこらえることができなかった。 確かに私たちは近頃すれ違ってばかりいた。 『悪い、今日行けなくなった』 「……え、どして?」 『急にバイト入った』 「でも、前から約束してたじゃない!」 『仲間が一人風邪引いたんだよ。人数足りないし仕方ないじゃねーか』 そして電話の向こうで真幸を呼ぶ声が聞こえた。女の人の声だった。 『悪い、呼ばれてっから。またな』 私が何か言う前にプツッと電話は切れてしまった。 三ヶ月ぐらい前から真幸はバイトを増やしたらしい。学校が違うからただでさえ会える時間は少ないのに、バイトにまで時間が取られてはさらに会える時間は限られてしまう。しかもそのバイト先は彼女の私にも絶対に教えてくれなかった。 それになんだか真幸は私に隠し事をしているみたいだし。デートのドタキャンも増えたし、よくない考えが頭をよぎる。 それにこの前は合コンに行ったみたいだし。友達に騙されて連れて行かれたって真幸は言ってて、事後だったけどちゃんと報告してくれたから安心してたけど。もしかしてそこで……いやいやまさか。でもそのまさかってことも百パーセントありえないわけじゃないでしょう。 なんだか真幸を疑ってしまう自分が嫌だ。できるなら信じたい。だけど、それには何かが足りないの。確証が欲しいんだよ。私が真幸の一番だっていう確証が。 というようなことをさっき真幸に話したらどんどん話しがこじれちゃってこの始末。言わなければ良かった?不安なんて自分の中に仕舞っておけば良かった?なんて今更考えてももう遅いんだから。私と真幸は終わったの。それだけが事実。 * * * 「いらっしゃいませ、こんばんわ!」 真幸と別れてから数日が経った。あれから特に私の生活に変化はない。今日も普通にコーヒーショップでバイトに励んでる。 「メニューをご覧になってお待ち下さい」 「あ、ども」 並んで待っているお客様にメニューを渡す。あ、このお客様のタンブラーすっごい綺麗。そう思った時にはすでに声をかけてしまっていて。 「タンブラー、ご自分でカスタマイズされたんですか?」 お客様は一瞬驚いた様子だったけど、 「えーっと、これは友人に作ってもらったもので」 と、にこやかに返してくれた。 「そうなんですか。とても素敵ですね」 「ありがとうございます」 あれはきっと手描きなんだと思う。クレヨンと色鉛筆で描かれた素敵な絵。 なんだか気持ちがほっこりして、その後はとても気分よく働くことができた。 そして閉店十分前にお店にやって来たお客様を見て私は驚いた。あれは……真幸? 「理沙子ちゃんだよね?」 「え?」 レジを担当していた私の前に立った彼は、私をそう呼んだ。真幸は私を理沙子ちゃんなんて呼ばない。そもそもどうして気づかなかったんだろう。真幸の髪は黒くてもっと短いじゃない。とすると、目の前の茶髪の彼は…… 「真人(マサト)くん?」 「そ。久しぶり。あ、ソイラテのショートサイズ一つ。あったかいやつね」 彼は真幸の双子のお兄さんの真人くん。何度か面識があったんだけど。まさか彼がここにくるなんて……これは偶然? 「久しぶり。……以上でよろしいでしょうか?」 「うん。もうバイト終わる?」 「あと十分だけど。片付けとかしたらもうちょいかかるよ。370円です」 「待ってる。話があるんだ」 彼が私に話したいこと?一体なんだろう。まぁ、私と彼の共通の話題なんて真幸しかないんだけど。 もやもやを抱えながらバイトを終えて店を出ると、さっき買ったラテのカップを手にした真人くんがいた。 「お疲れ」 「お待たせしました」 なんだかんだで結構待たせてしまった。 「いいよ。突然来たのは俺の方だし。最悪、今日理沙子ちゃんいないんじゃないかって思ってたし」 「そっか……」 「で、いきなり本題に入るけど、真幸と別れたんだって?」 随分とストレートにきたもんだ。もっとこう、オブラートに包むとか……しないか。しないしない。真幸もそうだったもんね。 |
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