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10000hit記念祭
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俺が最後に見た理沙子は泣き顔だった。そんな顔をさせたくて別れるわけじゃないのに。理沙子のためなんだ。笑ってよ。そう心の中でひたすら願った。けれど、そんなことおかまいなしに理沙子はただただ泣いていて。最終的に一方的に俺が関係を断ち切る形になってしまった。 理沙子の笑った顔が好きだった。理沙子が楽しそうに笑うと俺まで楽しくなって。心の底から愛しいと思った。 だけど、その愛しい人を自ら手放したのは俺の方なんだから。 俺はただ逃げただけなのかもしれない。理沙子が好きで好きすぎてどうしようもなくて。これ以上好きになって、もし理沙子から別れを告げられるようなことになったら、理沙子を壊してしまうかもしれない。 そんな不安を抱えていた俺は、就職を機会に自分から別れを切り出すことで自分自身を守ろうとした。 最低だよ。理沙子を泣かせてまで自分を守ったのに、そのお陰で今こうして理沙子を忘れられなくて苦しんでるんだから。 「ハァ……」 思わず出たため息は重い。 自宅アパートについた俺は、ポケットから鍵を出しながら階段を上がる。俺の部屋のある三階に到着したところで、廊下の奥に人がいるのが見えた。そこは紛れも無く俺の部屋の前で。 一歩ずつ近付く。ドアの前にしゃがみこんでいるのは女の子のようで……それは、ここにいるはずのない人物。 「理沙子……」 「あ、玲くんお帰りなさい!」 理沙子は立ち上がって俺に笑顔を向けた。俺が大好きな、最後にどうしても見たかった顔。 「なんで……?」 「うわあ、玲くん学生の時と全然変わってないね。若いね兄ちゃん。あ、私こっちで就職することにしたんだ」 「え?」 「もう、玲くん勝手にこっち行くとか別れるとか言うし」 理沙子は俺との距離を一歩ずつ縮めていく。 「電話番号もアドレスも変えちゃうし」 理沙子は右手を伸ばして俺の頬に触れた。冷たい手。理沙子はどれだけここで待っていてくれたのだろうか。 「寂しくて、会いたくて……死んじゃうかと思った」 「ごめん……でも!」 「私のことを思って別れたんだってことはわかってるけど、でも……でも、玲くん間違ってるよ」 理沙子の目が俺を捕らえた。 「私は玲くんと一緒だから幸せなんだよ。何があってもそれは変わらない」 「理沙子……」 俺だってそうだよ。できればずっと理沙子と一緒にいたかった。理沙子を好きでいたかった。だけど、それじゃダメなんだよ。 「だから追いかけてきたの。二度と離さないんだから」 「理沙子、あのさ」 「苦情は受け付けないからね。前は玲くんの勝手にさせたから、今度は私が勝手にする番!」 悪戯っ子のように笑う理沙子。あぁ、昔と何にも変わっちゃいない。俺が好きな理沙子のままだ。 「ねぇ、玲くん」 「ん?」 「私と結婚してください」 「へ?」 まさかのプロポーズ?!ちょ、理沙子落ち着け。いや、落ち着くのは俺の方か。色々突っ込みどころがありすぎて思考が追いつかないんだけど。 「あ、ようやく玲くん笑った」 そう言う理沙子は俺の頬を人差し指で突いた。そうか、俺今笑ってたんだ。 「俺、今も理沙子が好きだよ」 「知ってるよ。だってそのタンブラーまだ使ってるんでしょ?」 俺の手の中のタンブラーを理沙子は指差した。俺達何年ブランクがあったと思ってるんだ。それなのに、さも当然みたいに。 「まったく理沙子にはかなわない」 「だって玲くんが好きって言ってくれた自分から変わりたくなかったの」 「好きすぎて理沙子を困らせるかも」 「そんなの、どんと来い!」 誇らしげに自分の胸を叩いた理沙子を、俺は思わず抱きしめた。 「まさか女の子からプロポーズされるなんて……人生何があるかわからないね」 「それで返事は?」 「今度、指輪買いに行こっか」 顔を上げた理沙子は嬉しそうに笑った。俺はそんな彼女の頬に静かに唇を落とす。 永遠に続くこの想い。 君が笑っていられるよう、俺がずっと守るから。 きみは変わらない笑顔で 「安心して!玲くんは私が責任持って幸せにしてあげるから」 「それ俺が言いたかったのに」 「あっ、ごめん!」 (2010/05/12-2010/05/25)
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