|
10000hit記念祭
1/2
今日のお弁当。美味しいお弁当レシピ。ハッピーランチタイム。……どれにしよう。悩む。本屋の料理本コーナーで本を物色しはじめてからすでに一時間は経った。 気になるタイトルの本を手にとって、中身をパラパラと確認する。これをさっきからずっと続けてる。 先輩の好きな食べ物ってなんだっけ。聞いとけば良かった。あ、先輩っていうのは俺の一つ上の学年の椎名理沙子先輩。俺の大好きな人。 ウチの部活の女子部の先輩なんだけど、もう可愛いのなんのって!もう天使か女神かっていう。そんな話を友達にしたら恋愛眼鏡がかかってるって言われた。 毎日先輩にアピールし続けてるんだけど、どうにも先輩はこっち向いてくれなくて。 それで昨日の夜、ウチの姉貴に女はどういう男が好きかって聞いたら「料理の上手な人が好き」とか言うから。なるほど。胃袋をつかめってことだと思って、早速今日こうして本屋にやってきたってわけ。 理沙子先輩には明日は弁当を持ってこないようにお願いしてあるし完璧。 「これにすっかな」 俺は一冊のレシピ本を手に取った。なんか色々載ってるし。その本を持ってレジに向かおうとして新刊コーナーの前を通過しようとした。あ、この本新しいの出たんだ。 俺は昔からずっと好きだった作家の新刊が出てることに気付いた。ポップも立てられてて、そこには「三年ぶりの新刊ついに本日発売」と書かれている。そっか、今日出たばっかりなんだ。 隣の大学生ぐらいの男の人もこの新刊を手にとって裏表紙をじっと見てる。きっとこの人もこの作家が書いた本が好きなんだと思って俺が一冊手に取ったら、男の人はその本を平積みされた山の上に置いてさっさと行ってしまった。この作家のファンじゃなかったのかな。 レシピ本と新刊。この二冊を持って俺はレジへと向かった。これで先輩のハートと胃袋をガッチリ掴むぜ! * * * そしてやってきた翌日の昼休み。四時間目が終わるのと同時に俺は弁当箱の入った鞄を持って先輩のクラスへ猛ダッシュ。 「理沙子先輩!」 俺は教室後ろの戸口から先輩を呼んだ。先輩の席は教室の真ん中らへん。もう探さなくてもわかる。なぜなら何度もこの教室には来てるから。 俺の声にびっくりした様子の先輩はこっちを見て口元に人差し指を当てた。あ、教室では大声で呼ばないでって言われてたっけ。 「海(ウミ)くん、恥ずかしいから大声で呼ばないでって言ったでしょ!」 「ごめん、先輩に会えるのが嬉しくて」 慌てて俺の前にやってきた先輩はちょっと顔を赤くしてる。可愛いなぁもう。理沙子先輩にはずっと名字で呼ばれてたけど、毎日お願いしたおかげでようやく最近名前で呼んでもらえるようになった。 「今日もワンコは理沙子に忠実だね」 理沙子先輩の後ろからひょっこりと姿を現した理沙子先輩と同じ女子部の宮元先輩が俺らを冷やかすように笑った。 「ワンコ言わないでください」 「ワンコって、海くんに失礼でしょ!」 「違うの?」 「違いますよ。忠実っていうのは微妙ですけど、少なくともワンコではないです」 「海くん!」 理沙子先輩は恥ずかしそうに俺を睨んだ。もうその顔も可愛い!もう俺胸キュン。 「これから二人で仲良くランチタイムでしょ?行かないの」 「行きますよ。理沙子先輩お借りします」 「なんなら午後の授業の間も貸してあげるけど?」 「ちょ、何言ってるの?!」 宮元先輩ってば話わかってる。だけど、午後の授業も二人っきりになったりしたら俺がもたないと思う。先輩に嫌われたらこのお弁当作戦も意味なくなるからな。 「それは嬉しいんですけど、俺次の授業小テストあるんですよ。また次の機会にお願いします」 「海くん!」 本日二度目のお叱り。これ以上宮元先輩と話してたら理沙子先輩の俺の好感度が下がりそうだ。 「理沙子先輩行きましょう」 「はいはい、行ってらっしゃい!」 宮元先輩に見送られて俺と理沙子先輩が向かったのは中庭。日当たりのいい場所にいくつかベンチがあるからそこに先輩と並んで座った。 「俺、今日のは自信作なんだ」 「海くん、料理するんだ?」 「いや、滅多にしないよ。年に一回するかしないか」 親が居ない時は姉貴が飯作ってくれるし。だから俺が本気で料理するのはだいぶ久しぶりなんだ。 俺は鞄から弁当箱を二つ取り出した。俺用の大きいものと理沙子先輩用の小さいやつ。小さいのは姉貴に借りた。俺はまず小さいほうの蓋を開けて理沙子先輩に渡す。 「すごい綺麗。美味しそう」 弁当箱を受け取った先輩は目をキラキラさせて弁当を見つめた。お、良い反応。 |
|