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(C)Yuuki nanase 2010 - 2013



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10000hit記念祭 1/2
 




あー疲れた。試験監督って暇だし無駄に疲れるし良いことないよな、なんて考えながら俺は回収したばかりの答案用紙を手に化学準備室へと向かう。

今日でテストは終わり。つっても、テスト最終日でハイお疲れさん!っていうのは生徒たちだけであって、俺達教師には採点という大仕事が待っている。面倒くさいし、俺コレ嫌いなんだよ。


「あ、中原先生!」

「あ?」


廊下を歩いてたら前から歩いてきた男子生徒に呼ばれる。俺の受け持つクラスの村瀬だ。


「先生!化学超ムズかったんだけど!」

「それは採点が楽しみだな」

「ねえ、補習のボーダーって何点?」

「答案返される前から補習の心配かよ」


どんだけ出来なかったんだよ。オイ。


「だってさ、書けた分が全部当たってて六十点ぐらいだもん。全部正解とか奇跡じゃね?」

「ま、奇跡を信じて待つんだな。ちゃんと勉強しろよ受験生」


村瀬の肩をポンと叩いて俺はまた歩を進める。そんな難しく作ったつもりなかったんだけどなぁ。アイツ、きっとそんなに勉強してねぇな。


* * *


「あー肩凝った」


準備室の自席の椅子に座って肩を回す。俺の他には誰もいないから何を言っても独り言にしかならない。

まずは腹ごしらえすっかな。っと、その前にある人物にメールを送る。本当は電話でちゃっちゃか済ませたいんだけど、さすがに校内だしなぁ。


『飯、どこで食うの?』


ハイ送信。そして返事を待たずに机の引き出しから弁当を取り出す。勿論手作り。俺の。一人暮らしが長いと料理にハマるんだよ。

お、返事来たか?サイレントモードにしている携帯のランプが光っている。


『図書準備室で食べてるよ』


なんだよ、もう食ってんのかよ。声かけなかったら拗ねると思ってこうして連絡したのに。


『今からそっち行くから、鍵開けておいて』


向こうの都合をサラッと無視して俺は弁当を手に化学準備室を出た。

途中で何人かの生徒に挨拶されて「気をつけて帰れよ」なんて教師らしいことを言いながら、図書室へ向かう。

そして三階の奥にある図書室の扉の前に立つ。扉を横に引くと、閉館の札がかかってはいるが鍵は開いていた。よしよし、ちゃんと開けておいてくれたんだな。

中に入る前に一応周りをチェック。うん、誰もいない。注意はしておくにこしたことねえからな。そして図書室に入ってまた鍵を閉める。

図書室に入ってすぐ左側にはカウンターがあって、さらにその奥には扉が一つ。図書準備室へ繋がる扉だ。

その中へ入ると、本棚や机に囲まれた中にローテーブルとセットで置かれているソファーに座ってもくもくと弁当を食ってる人物がいた。


「理沙子、冷たいじゃん」

「え、でも、先生採点しながらご飯食べるかなって」

「んなことしねぇよ。飯がまずくなる」


仕事しながら飯とか御免だね。相当切羽詰まってないとやらないな。俺は理沙子の隣に腰を下ろして弁当をテーブルに広げる。

こいつ、椎名理沙子はその、俺の女。まあ色々あって付き合うことになったんだけど、教師と生徒っていう肩書きがあるもんでバレちゃならねぇわけ。


「このまま飯食って寝れたら最高なのにな」

「私も図書委員業務があるんで寝れないんですから、頑張りましょうよ。ね、先生!」

「やだ」

「えぇっ?!」


理沙子は手にしていたフォークを思わず取り落としそうになる。あーあ、困った顔してるよ。けどさ、俺もただ無駄に拒否したわけじゃないから。ちゃんと言い分があるわけで。


「理沙子ちゃん、今ここに俺たち二人しかいないの」

「うん……」

「こういう時はなんて呼べばいいって教えたっけ?」

「で、でもここ学校だし」

「理沙子」


ちょっと強めに言ってやれば肩を震わせる理沙子。俺をじっと見つめて何かを懇願するような顔をする。そんな顔しても駄目だぞ。可愛いけど、無茶苦茶グッときてるけどそれでも駄目だぞ。


「理沙子」


もう一度読んでやると、理沙子は俺に抱き着いてきて胸に顔を押し付けた。そしてとても小さな声で、


「し……信吾」


俺の名前を呼んだ。顔は全く見えねぇけど、耳は真っ赤だから相当恥ずかしいのだろう。っていうか、抱き着きはできるけど名前は呼べないってどんな基準だよ。


「はい、よくできました」


俺は理沙子の頭を撫でながら抱きしめ返した。やっぱりいいわ。テスト中は全然一緒にいられなかったし、理沙子不足だったみてぇ。じゅっこも年下の女にここまでハマるなんて予想外だったぜ。


「先生?」


理沙子が顔を上げる。あ、呼び方また戻ってる。けど今日はもういいか。


「なに?」

「……好き」


おっと。不意打ちだなこれ。だから駄目だって。その顔とか目とか色々と不都合なんだって。可愛いすぎて寧ろアウトだから。理沙子が卒業するまで我慢するって決めたんだから。まぁ、全部は我慢してねぇけど。


「うん。俺も理沙子が好きだよ。……けど、もうその顔は禁止」

「え……」


理沙子の唇に自分のを重ねる。こうしてれば理沙子の顔見れねぇし。まさに一石二鳥。

さすがにキスも卒業するまで我慢はできねぇわ。っつーか、俺キス魔だし。相手は理沙子限定だけど。


* * *


「ぬわぁ、さらに肩凝った……」


昼飯食い終わって理沙子と別れて、化学準備室でテストの採点作業を始めてからだいぶ時間が経った。

他の先生方も少し前まではここで採点作業してたけど、今残ってんのは俺だけ。だってさ、明日俺授業多いんだもん。せめて化学はテスト初日にやって欲しかった。そしたらのんびり採点作業できたのに。

愚痴ってても仕方ないので黙々と採点し続けた結果、何とか明日の分は終わった。あーもーいいや上出来だ。明後日の分はまた明日ってことで。

理沙子まだ図書室にいっかな。今メール打っても委員業務中はアイツ電源切ってるし、そろそろ閉館時間だし直接行ってみっかな。

俺はテストの答案を机の引き出しに入れて施錠してから化学準備室を出た。





 
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