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10000hit記念祭
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「ちょっと貴也(タカヤ)!それ私のウーロンなんだけど!」 「あ?どれも同じだろ?!そこにあるやつ飲めよ」 「違うの!私は氷なしって決めてるんだから!」 「いちいちうっせーな」 ぎゃいぎゃい俺の隣で騒ぐ二人。村瀬貴也と椎名理沙子。 今日はテスト最終日で学校は午前中しかない。だから俺達はクラスの奴ら何人かでカラオケに来たんだけど、貴也が間違って理沙子のウーロン茶を飲んだらしくて、それが原因で口論を始めた。またかよ。 「もういい!また自分で行ってくるから」 「いいよ。俺が行くから。もう文句言われたくねぇし」 「ちょ、そんな嫌々言われても嬉しくないから!自分で行く!」 今度はどっちがドリンクバーに行くかでモメはじめた。 このカラオケはドリンク飲み放題で、各自ドリンクバーコーナーで飲み物を取ってくるシステムになっているんだけど。誰が行くかとかどっちでもよくね? 「いいから!お前は黙って歌ってろよ」 「意味わかんない!黙ってたら歌えないじゃない!」 「もうお前ら二人で行けば?」 俺は我慢できずにずっと眺めていた携帯から顔を上げて貴也と理沙子を睨んだ。二人はきょとんとした顔で俺を見ている。 「横でギャーギャーうっせえ。どっちが行くかでもめるんなら二人で行けよ」 我ながらもっともな意見だと思った。二人で行けば問題ねえだろーが。 「なんで理沙子と?!」 「なんで貴也と?!」 ほら声がハモった。お前ら基本的に息ぴったりなんだから。くだらないことで喧嘩してんじゃねえよ。 「さっさと行け」 「雄大、なんか機嫌悪くない?」 「まさか年上の彼女と何かあったとか?」 「……さっさと行って来い」 二人はそそくさと部屋を出て行った。ようやく静かになった。いや、カラオケなんだからさっきから大音量で音楽が流れてるわけなんだけど。痴話喧嘩の雑音はまた違うだろ。 そもそもあいつらいつも何かしら言い合いしてっけど、お互い好きなのバレバレ。 特に貴也。理沙子が他の男と仲良くしてたらガッツリ睨んでくるし、理沙子だって貴也が女と話してたら睨みはしないもののチラチラ気にしてるし。 好きなら好きって言えばいいのに。わざわざ話をややこしくする必要ねえだろ。そもそも好きな相手と毎日会えてるだけで幸せなんだって何で気付かねんだよ。 「雄大、何か歌わねーの?」 「俺はいいや。勉強してるときにちょい風邪引いたっぽくて、喉の調子よくないんだ」 「そっか」 今は歌いたい気分じゃない。確かに喉の調子はよくないけれど、それだけじゃない。 「お、貴也と理沙子戻ってきた!お前ら二人で何か歌えよ」 「は?!」 「なんで?!」 二人揃ってドリンクバーから戻ってきたところで、さっき俺に声をかけた奴が貴也と理沙子に電モクを渡した。案の定、二人は過剰な反応を示す。 「じゃあ貴也が嫌なら俺と歌おうか、理沙子」 「え?別にいいけど」 「嫌なんて言ってないだろ!おい理沙子!曲選ぶぞ!」 「あ、ちょ、貴也!」 貴也は理沙子の腕を引っ張ってさっきまで座っていた俺の隣に並んで座った。理沙子を誘った奴は俺のほうを見て親指を立ててニカッと笑う。俺も苦笑しながら片手を上げて返す。 こいつも知ってるんだ。貴也と理沙子が両想いだって。だから自分が理沙子と歌おうと誘えば貴也が反応することをわかっててやったんだ。マジであいつら世話やけるっつーの。 「コレ歌える?」 「リイコさんパートはサビしかわかんないかも」 「大丈夫。いざとなったら俺がリイコすっから」 「えー」 クスクスと楽しそうに笑う理沙子と、そんな彼女を柔らかい眼差しで見る貴也。そうそうそれが本来のお前らなんだよ。 「じゃあ貴也がリイコさん歌えば?」 「理沙子は?」 「ラップ。これなら自信ある」 「むしろなんでそっち歌えるんだよ」 二人の笑い声が一層大きくなる。楽しそうでいいねぇ。羨ましいよ。おそらく二人が見てるのは最近男女のデュエットとして人気の曲。人気の女性歌手と男性歌手が一緒に歌ってる曲。女がメロディーで男がラップ。 |
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