その身滅びる時もあなたと似た二人で終焉を
狡噛と名前は似ている、考え方も嗜好も行動でさえも。
だから2人は惹かれ合い、だから2人はいいパートナーだった。
しかし、2人には決定的な違いがあった。
狡噛は監視官、名前は執行官。
2人の違いはそれは大きかったのだ。
暗い地下牢のような部屋には、裏路地にでもありそうな雰囲気のいいバーのホログラムが部屋を彩っていた。
薄ぼんやりと色付く淡いオレンジの光に落ち着く木の色。
そんな部屋に一際大きなベッドとソファ、そして今時では珍しいキッチンが置かれていた。
部屋の主、名前はその大きなソファに寝そべり、細くてそれでいて筋肉質で、尚且つ柔らかそうなその脚を、行儀悪くソファの背もたれに引っ掛け鼻歌を歌う。
そしてこれまた細くて白く美しい指先にマニキュアを施していた。
「入るぞ」
そんな時、申し訳程度にしか鳴らないノック音と、不躾にもずかずかと入ってきた足音。
名前はすぐさまに入ってきた人物に対して検討をつけると、その人物に向かって文句を言った。
『慎也ったら、入る時はちゃんと返事してからにしてって言ったでしょ!』
不満げに膨らました頬に、狡噛は可愛い彼女のご機嫌を取るように頭を撫でる。
「別に俺なんだからいいだろ。一緒に住んでるんだし」
『転がり込んで来ただけじゃない』
尚も頬を膨らます名前だが、先程までの噛み付きようはもうない。
そんな様子に狡噛は笑うと、いつものように名前の額に口付けをした。
「ただいま、名前」
『お帰り、慎也』
交わった2人にそこからの会話は恐らく他者には理解し得ないだろう。
それ程までに2人はお互いを深く理解していたし、似ていた。
2人が深い口づけを交わしていた時、突如鳴ったデバイス。
『あら、仕事ね』
「全く、お楽しみの時に限ってこれだ」
狡噛は不満を漏らしながらも電話に出る。
相手は同僚の宜野座だ。
「休みなのにすまないな」
そう一言添えて、仕事の内容が伝えられる。
勿論傍に名前がいる事も分かっている宜野座は、名前にも来るように言うと、電話を切った。
『行きましょうか。慎也、早く服着たら?』
いつものように軽口を叩く真琴とそれに笑う狡噛。
2人は、猟犬と猟主の関係だった。
『懐かしいわね、あの頃が』
懐かしむ表情に潜む哀しみ。
名前はサンドバッグを打ち終えた狡噛の頭から水をかけた。
「何がだ?」
それをタオルで拭いながら名前に尋ねる。
『慎也が私の部屋に住んでた頃がさ』
狡噛は名前の話を聞き、目を鋭くさせた。
標本事件、それ以降2人の違いはなくなってしまったのだ。
「そうだな」
一言そう返した狡噛に、名前はするりとその首に絡みついた。
『全部分かってるから。最後のその日も慎也と一緒にいるよ』
「名前……」
『お前は駄目だとか言わないでよね?慎也が一番分かるでしょ?』
名前の強い眼差しに狡噛は優しい瞳に戻る。
2人は似ていた、お互いを誰よりもみていた。
そんな2人が惹かれ合うのも必然で、そんな2人がこうなることもまた必然であったのかもしれない。
2人の影がまた、ゆっくりと交わった。
その身滅びる時もあなたと似た二人で終焉を
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