ほんとは気付いてる
執行官に与えられた部屋にて、仕事ぎりぎりまで待つ。
待っている相手は、眼鏡でスーツをきっちり着こなした監視官。
私たち執行官の飼い主だ。
「名字執行官。お前は毎日毎日、自分で起きろと言っているだろう」
私の部屋にノックもなしに訪れたギノさんは、今日も眉間に深いシワを寄せている。
そんな表情をさせているのは紛れも無い私なんだけど。
『おはよー、ギノさん』
ベッドに寝転びながらひらひらと手を振る。
怒るくらいなら来なければいいのに、ギノさんが私を起こしにくるのを忘れたことは一度もない。
ギノさんいわく、私は執行官の仕事はきっちりこなすし、一課の中で一番デスクワークも出来るから必要らしい。
それが私を起こしにくる動機らしいが、理由になってないよね。
だって、秀星とかに任せればいいじゃん。
ただ起こしに来るだけだもん。
「…はあ。ほら、早く着替えろ」
『ギノさん着替えさせてー』
「全くお前は…」
ぶつぶつと文句を言いながらも結局、着替えまで手伝ってくれる。
思えば、私が執行官になってからずっとギノさんは私に何かと世話を焼いてくれるのだ。
『ありがと、ギノさん。…ねえ、ギノさん。何で私に構うの?』
きっちりしめられたネクタイに少し眉を寄せながら、ギノさんに尋ねる。
するとギノさんは、しばし黙り込む。
「それは前にも言ったはずだが」
『動機はね。でも理由じゃない』
「……お前がだらし無いからだ」
ギノさんを追い詰めるようにして、私は言葉を掛ける。
すると、ギノさんは完全に黙り込んでしまった。
私が欲しいのは、そんな言葉じゃないんだけどな。
…でも、まあ。
『私も好きだよ、ギノさん』
今は私からの愛の言葉で、貴方の分の愛の言葉を埋めてあげる。
ほんとは気付いてる
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