頬から顎にかけてのラインを滴る汗を拭う。それともそれは涙、か。どちらにしてもその水滴の存在は疎ましかったので取り去る、取り去る。眼下に広がる大きな川の流れには、まだ青い葉や中味の無い紙パックやらがぷかぷかと浮かんでいて、それらの描く混沌が私の頭の中と似ていると思うぐらいには、私の思考はやられていた。

険しい道を努力し掻き分け進んで来た者だけが意見ないし表現する事を許される、そんな世の中だ。努力して来なかった者には誰も耳を傾けず、目の前を素通りされて行く。そんな当たり前の世の中だ。正しいとされるものは多くの人間が指示したもの、そうでないものは正しくないものとされる。だから、何が正しくて何が正しくないのかは、自分自身で見極めなくてはならない。正しいとされるものを指示する多くの人間は、必ずしもそれを判別するに値する正しい人間であるとは言えないからだ。そして努力して登り詰めた人間が必ずしも正しいとも言えない。しかし少なくとも言えるのは、努力して来なかった人間は正しい人間ではないという事。結局、正しい人間、正しい物事というのは極限られた存在、もしくは存在しないのかも知れない。認められたものしか正しくない世の中だというのなら、私は何も信じては行けない。自分が正しいと思ったものを正しいとする、それが一番、自分と向き合って歩いて行ける道なのではないのだろうか。少なくとも、私にとっては。


「そっか、うん。成る程」
隣で頷く奴は呑気に川の向こう岸を眺めている。何が成る程だ。
私が正しいと思ったら、それは多分、正しいのだ。少し未来の私がそれは正しくなかったと主張したとしても、それは今の私とは別人の意見だ。

暑い。暑くて暑くて、融けてしまいそうだなんて陳腐な文が脳裏を掠める。どうせ融けてしまうならと、私は隣の奴の手を取った。これが、今の私にとっての、正しい選択なのだ。
果てない幸せはいらない


 
2011/08/08

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