ドロップ | ナノ

「3年A組……」




生徒の名前が呼ばれ、起立する音が等間隔で体育館に響く。いつもは教職に相応しくない服を着用している教師もスーツを着てビシッとしている。空気すら堅苦しく、騒がしい3年Z組の面々も流石に静かに自分達のクラスの番が来るのを待っていた。ただ、一つだけ、空いた席は卒業を拒絶してるかのように存在を強調している。




沖田総悟はちらりと教師達が座る席を見た。仮担任の高杉はパイプ椅子に座り、面倒な表情で腕を組んでいた。保健医の彼がZ組の担任を任されるとはびっくりだったが、今ではそうなってよかったのではないかと、沖田は考える。




「3年F組……」




もうすぐ、自分達の番が来る。Z組は平たく言えば特別学級。手に追えない彼等を遠ざけるために作られたZ組は、事実上、F組の隣に位置する。無論、教室は遠く離されてはいるが、それを好都合のごとく騒がしい毎日を送っていた彼等は、今日卒業する。




沖田は瞳を閉じる。瞼の裏側には幼なじみと担任の姿。……彼等が信じている待ち人。だけど、もう諦めるしかないのだろう。待ち人は何時まで経っても来ない。ガタリ、と静かに立ち上がったのは高杉だった。苦虫を潰したような複雑な表情をしていた。



ああ、嫌なのだろう。沖田は直ぐに感付いた。高杉も生徒の名前を呼ぶのは自分ではなく、坂田銀八だと……きっと、このクラスの全員も思っている。




―――キィィィ……




また静かに音が鳴る。背後から立て付けの悪い扉の開く、音。


……3年F組の点呼が終わった瞬間だった。




Z組の生徒は一瞬の沈黙で振り返った。その先に居たのは銀色に輝く髪、白衣を纏った男と、その隣に居る女生徒。どよめきが走る。パタパタと女生徒はZ組に走り寄り、空いた席に着席する。沖田と目が合って少女は笑った。




「お待たせ」




最後に会ったときより少しふっくらとしている。その反対かのように、現れた担任は幾分か痩せたようにも見えた。




「待たせたなてめぇらぁぁ!なにしんみりしちゃってんの?いいか、名前呼ぶぞコノヤロー!」








101215

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -