ドロップ | ナノ

少ない荷物を更に少なく纏め、私は駅に居た。はぁ、と息を吐くとそれは白く、空気に溶けた。こんなに寒いのに雪は降っていない。でもそれがなんとなく嬉しかった。旅立ちの日に、雪は切なくなるから。




今日、私の産まれた場所、育った場所を離れる。戻ってくるかはわからない。そもそも高校に退学届を出したら理事長が「卒業式までには戻っておいで」と言われ、受理されないまま。だから、きっと、3月1日には此処に居るのだろう。……銀八と一緒に。
教師と生徒が恋人だなんて、本来ならばご法度だし、退学届は不本意でも受け止めるべきなのに理事長は行っておいでと言った。まるで彼の過去を全て知ってるかのように穏やかで。




「あの男は、いつだって探していた。自分がこの世で一番大切なものをね」




それが本当だったら、彼の大切なものは私なのだろうか。それは彼に会ったら聞けばいい。



……銀八の所に私は行く。何処に居るかもわからない。彼の故郷の場所は知ったけれど其処に居るのかはわからない。それでも、私は銀八と一緒に居たいとずっと、ずっと思っているわけで、つい弱くもなって総悟や高杉先生にも甘えてしまったけれど、私は強くなりたい。銀八の哀しみも受け止めたい。私の中に現れた愛情を2人で分かち合いたい。


立ち上がるのは今からでも遅くはないはず。勝手に悩んで勝手に消えた馬鹿を迎えに行こう。そして、勝手に悩んで弱くなった馬鹿の話を聞いてもらおう。




「待ってて」




改札の向こうに入る前、これが最後とばかりに街を振り返った。まだ明るい街中はクリスマスイルミネーションがきらびやかに輝いて、儚さを醸し出していた。それらを目に焼き付け、私は前に進んだ。




総悟、きっと怒っているだろうな。いや、みんな、怒ってる。私も銀八と同じようにみんなにメールを送ったのだから。……でもわかって。私の覚悟を。




一番高い乗車券を改札口に入れ、一番遠いホームまで歩き出した。今は一人じゃないとお腹を撫でる。期限は3月1日の卒業式。








101215

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