総悟にマンションの下まで送ってもらって別れた。私より小さかった幼なじみの背はいつの間にか大きかった。 「ただいま」 「おかえりー」 「!……」 「……どったの?」 玄関先で戸惑う私をキッチンから顔を出す先生。「おかえり」という言葉は心から安堵させる何かがある。先生になんにもないよと返してドアを閉めた。今からご飯なようで、オーブン皿の上にはミートドリアが湯気を立てていた。 「食う?」 「お腹いっぱいだからいいや。先生」 そろそろと手を伸ばして先生の背中を捕まえた。全体重を任せてぴったりと密着する。深呼吸してからもう一度ただいまと言えば、おかえりと優しい声。 「名前?」 「ごめん、もうちょっとだけこうさせて」 あの頃の一人の私はもう居ない。先生が惜しみ無く与えてくれる愛情で私は変われる。良い方向に進んで生きていける。 「総悟に全部話したんだね」 「……あいつも心配はしてたからな。新学期始まって何かとお前が構われてたのも幼なじみ心ってやつだろ」 「……うん」 「……勝手に話して悪いな」 「いいよ、総悟にだから許す」 胡座をかく先生の上に頭を乗せて、先生が食べ終わるのを待つ。眠たくて、心地よくて、秋の夜は長く感じた。 「名前?」 足の上で寝息を立て始めた名前を起こさぬように上着を掛ける。小さく丸まって眠る名前はまるで何かに怯えているようで悲しくなった。まだ、足りないんだ。俺では、足りない。 「……どーすっかな」 テーブルの上に散らばった紙の山の下を掘り起こし、再検査と書かれた夏休みの間に行なった健康診断の結果用紙に溜め息を吐いた。 101207 |