「ごほっごほっ」 ピピピッと体温計が鳴って、腋に差したそれを抜き取り数値を見た。……38.6度。完璧な風邪だ。 「……風邪だね。先生、病院行こ」 「いいって」 「よくない。このまま学校行って風邪移したらどうすんの。わかってる?受験生だらけなんだから!」 「……すいません」 先生を説き伏せ、私はタクシーを呼んだ。保険証の場所を聞いたら財布に入ってる、と息も絶え絶えに先生は言った。 「歩ける?」 「おー……」 大きく咳をした先生を肩に背負ってやってきたタクシーに乗せる。お互いに息が荒くなる。 「……お前が学校休みで助かったかも……」 「ほんとにね。運転手さん、市民病院までお願いします」 結局……というかわかっていることだけど、只の風邪で済んだ。点滴を打ったお陰でいくらかマシになったようで、その間、会計をして薬を貰って先生を待っていた。 土曜日だからか外来の待合室は混んでいて、立って待っていると、エレベーターから見慣れた栗色の髪の少年が降りてきた。 「総悟」 「、名前じゃねぇすか」 「どうして此処に……あ、ミツバ姉?」 そんなとこでさぁ、と暗い顔をして総悟は言った。総悟の実姉であるミツバ姉とは私もよく遊んでもらっていたな、と思い出していた。そんな彼女は身体も弱く入院することもしばしば。今回もその類なのだろう。 「……そんなに良くないの?」 「本人は強がっていやがりますがねぇ。それより名前こそ病院なんて風邪ですかい?」 「ああ、私じゃないけどね」 「?どういう……」 「……戻ってきたみたい。総悟、後ろ」 診察室の扉が開いた先に先生は現れた。先生も私を見つけたのか、軽い足取りで向かってくる。 「……なんであの男が居るんでさ?」 「なんか体調悪いみたいだから病院連れてきてあげたの」 「総一郎君じゃねぇの。なにお前も風邪?」 「野暮用ってとこっす。じゃ、俺は行きやすぜ」 片手を上げて去っていく総悟にいつもみたいな追及をされないことに違和感があった。変なの。 「そういえば、あいつに軽く話したんだよな」 先生の熱い手が私の手も掴む。 「何を?」 「俺とお前のこと」 「えっ?」 101206 |