初めて電話を掛けてきた苗字に驚いた。こいつはきっと俺のことが嫌いで、電話なんて掛けてこないだろうと括っていた。 それが今、どうしたのだろうか。 慌てて冷静になって電話に出た。何故こうも緊張しているのだと後から気付いた。 「もしもし?」 「……先生?……助けて…」 「苗字?」 「…」 「おい苗字っ!?」 応答もなくなり、いよいよ本気で焦った俺は溜まった雑務も放置で携帯だけを手にもち、電話が繋がったまま何度も名前を呼びながら苗字の家に向かった。 くそでかい家の割には家庭内はぼろぼろでまるで柔らかい砂の上に建てた家のように今の俺には見える。それくらい、悲惨な家だということだ。 緊急事態かはわからないが、鍵は開いていたので勝手に家に侵入し、苗字を探した。 そして、二階の開きっぱなしの扉の向こうで苗字は倒れていた。制服はボロボロで何処からか流れ出ている血がカーペットに染みを作っている。 「……苗字っ!」 心臓が跳ねた、これでもないかというくらいに、心臓が痛い。苗字を抱き起こし、身体を揺らす。未だに通話中だったため、一旦切り救急車を呼んだ。119?110?どっちか一瞬悩んだが、なんとか電話し、病院で手当てを受け、苗字は全治2週間という結果に。 事態を重く見た病院側が警察に通報し、軽く取り調べを受ける羽目になり俺はようやく、苗字の傍についていられるようになった。 念のため、坂本に電話し、学校へ報告は行っているのかを聞いて、まだなにもないと返ってきたので苗字が重傷を負ったということだけ言って電話を切ったのが数分前。 ゆっくりと苗字が目を覚まし、俺の問い掛けにまるで他人事のように答えたのが辛かった。 どうして泣かない?泣けばいいのに。 気付けば俺は苗字を抱きしめていた。先程まで寝ていた割に、苗字の身体はとても冷たくて、怖かった。 「っ……!」 服を掴み、苗字はやっと泣いた。俺はただ抱きしめることしかできなかった。最初はただの興味本意でしか見ていなかったのに、なんなんだこの気持ちは。 俺は苗字を生徒として見ているのか?この変な感じはなんなのだろうか。 俺はそのまま苗字を抱きしめていた。落ち着いてきた苗字は自分から身体を離した。 「……先生、ごめ、んね」 「……あ、ああ」 「……私、決めた。家、売るよ。私の権限じゃどうにもならないからお母さんと話し合ってみる」 笑って苗字が言うから、事態は少し前向きに進んだの、か?いやしかし、 「住むとこ、どーすんだよ」 「……適当に家見つけるかな。……そうなると、色々お金も掛かっちゃうし、学費も今は自分が払ってる状態だから……辞めようと思う」 ずきり、と身体の何処かが鳴った。尚も苗字はもう決めたかのような表情で俺を見た。……何も言えねぇじゃないか。 「あ、バイト先に連絡してないや。先生、私の携帯持ってない?」 「苗字」 「先、せ……い?」 「住むとこないならさー……俺ん家来いよ」 あ、俺、今なんつった? 100927 |