本当に坂田銀八は学校に何も言わなかった。客としても来なかったし、他の先生も来ることがなくて、私としてはホッとした。 そして、無事に進級し、私は何故か坂田が受け持つ3年Z組のクラスに混じることになった。このクラスは普通の教師じゃ手に負えないメンバーで構成されていると噂に聞いていた私は掲示されているクラス替え表を見て首を傾げた。学校側にばれていなければ表面上での素行は良いほうなはずなのに。 (まぁ、前のクラスでも孤立していたし、今更変わったところで気にも留めないんだけどね) そんなことを考えながらZ組の教室に入り、黒板に書かれた席順を眺めていた。ふっと横に立つ、栗色の髪の少年。……そういえば幼なじみの沖田総悟はZ組だったっけ。 「また名前がなんでこのクラスなんでィ?」 「……私もそれが聞きたいんだけど、総悟」 私の席は教室の真ん中。それに動じることもなく、席に座り鞄から乱暴に携帯を出すとすぐにカチカチと音を鳴らし、コピーしてあったメールの内容を本文に貼り付けては送るの繰り返しをしていた。一瞬だけ教室内が静まったような気がしたが、あえて見て見ぬフリ。 そうそう、キャバクラでのバイトは相も変わらず健在だ。実を言えばもうすぐ私の誕生日。だから客を呼び込めば呼び込むほどいつもより歩合が付き給料も増える。これを利用しない手はないから私はあまり送らない営業メールに必死というわけだ。総悟は私の席の前に座り、また話し掛けてきた。 「掲示板に貼られてたの見やしたけど3学期末の模試のトップだったそうじゃありませんか?」 「……私が?」 「そうでさァ。知らなかったんすか?クラス替えの所に貼られてまさァ」 クラス替えに気を取られて見ていなかった。初めて聞くことに驚きを隠せない。いつもは二位や三位だった私がトップ?……嬉しいといえば嬉しい。だけどなんだか複雑だ。ずっとトップをキープし続けていた人間と今年からクラスが同じになったのだから。 「そ、うなんだ。……あ、メール」 バイブレーションが手の中でメールが受信されたことを知らせた。即座に携帯を開き、本文を見ればお客さんから今夜寄るよ、と表示されていた。 「……これからよろしくね、総悟」 それ以上なんと総悟に言えばいいのかわからない。そもそもまともに話したのは坂田銀八の住所を聞いて以来だ。挨拶を残して鞄を持つと足早に騒がしい教室を出る。ホームルームはサボりだ。 「なにやってんだ苗字」 ああ、もう少し早く教室を出るべきだったか。新しい担任に見つかってしまった。 「……体調が悪いので帰ります」 「……家で大人しく寝とけよ」 坂田銀八……坂田先生(そろそろちゃんと敬おう)は気をつけてなと言うと教室の中へと消えた。 ……仮病なことをわかってるくせに。 クラスが変わろうが誕生日が来ようが今までと変わらない生活。 それでいい、それで。 100915 |