「お疲れさまでしたー」 バックルームに待機している女の子に挨拶をして私は先に店を上がる。終電には余裕で間に合いそうだ。 「あー……疲れた」 自分の身体を労いながら裏口から外に出る。鞄の中を漁って携帯を取り出し、開くと不在着信が入っていた。“坂田先生”と履歴には表示されている。何の用だろう?そういえば連絡先を交わしてから初めて電話が掛かってきたかもしれない。 「よ、苗字。やっぱ仕事だったか」 「えっ、わ、っ……先せ、」 突然の声に驚いて携帯を落としそうになる。しーっと、先生の人差し指が唇に触れた。びっくりしたのと恥ずかしいのが合わさって、顔が赤くなるのがわかる。 大人しくなった私に先生は4つ折りにされた紙を渡した。 「お前に渡さなきゃいけねぇもんあってよ、月曜日提出だから、それ」 「あ……今日金曜日だから……」 「とりあえずさ、原チャ向こうに止めてっから、行こうぜ。送るわ」 原付を止めている所まで歩きながら、私は託された紙を開く。進路希望調査と太字で書かれたそれに大きくため息を吐いた。 「坂本からは就職希望って聞いてるけど。お前の成績からして何も就職じゃ…」 「進学する気はないので、就職でいいです」 「……担任としては進学してほしいけど、お前がそう言うなら仕方ないな。ほい、メット」 ヘルメットを被せられた。サイズがすごくぶかぶかだった。先生は原付の後ろに乗るように促してきたので乗る。一瞬、目が合った。先生の目に逆らえないんじゃないかと思った。 「それからさー、敬語止めろよ。なんか無理して使ってるっつー感じ」 煙草の火を携帯灰皿に押し付けるとそれをポケットに仕舞う先生。先生の顔はもう見えないけど、やっぱり彼の目は何処か逆らえないように思えた。 「……はい」 頷いてしまったあたしはおかしくなったのだろうか。 ……結局先生に家まで送ってもらった。 理由は単純。 『お前も俺の家知ってんだから俺がお前の家を知ってもいいだろ』 ほんとに単純。いやまぁ嫌いではないんだけど、敬語を使わないっていうのは変だった。 『罰金、いちご牛乳な』 ああもう訳がわからない!あと1年間耐えれるのか私。 「……変なの」 私、素で坂田と話していた気がする。恥ずかしい。 『じゃあな、苗字。ちゃんと学校来いよ』 『はい……あ、……う、うん?』 先生に踊らされている、そんな気がする。 100917 |