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また間違えた。分岐点を見極める能力は繰り返しても成長しないのか。

窓を開けると、強い風が部屋に吹き込む。バタバタとカーテンが暴れる。今日は季節外れの猛暑日となっています。天気予報のお姉さんの声を合図に、ベランダを蹴る。

ひっくり返った世界を見るのは、何回目だろう。

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おう、よろしくな!
自己紹介の終わった警察学校の休み時間。ガヤガヤとざわめきが教室いっぱいに満ちていた。

はじめまして、これからよろしく。
そんな挨拶が飛び交っている。その音をBGMにオレは机に伏せっていた。片腕をたてて、反対の腕は枕にする。そうすると完全に周りから顔が隠れて、自分だけの"部屋"が出来るのだ。授業をサボり始めた中学校からの技術だった。

挨拶の中に、聴き慣れた声を探し当てた。
伊達航。高校からの親友だ。頼り甲斐のある兄貴分に昔から頼り切りだった。

あちらでは数人がまとまって話しているのか、会話の内容が聞き取りづらい。でも、腕から顔をあげるのが嫌だった。顔を見られるのも、自分だけが一人きりだと気がつくのも。
きゅっと唇を噛む。はじめましてで満ちている部屋はどこか興奮していて、熱気がこもっている。

一人、伏せっている自分は浮いているだろう。けれど誰も声をかけてこないなら、ただ、遠巻きに観察されているのだろう。
数分前の机に伏せった自分をちょっと恨んだ。


「ナマエ!」
呼ばれた、伊達だ。
ふっと緩んだ顔を自覚してまた引き締める。これは反応した方がいいのだろうか、伊達がくれたチャンスじゃないのか。勢いよく起き上がりそうになって、慌てて止める。そんな速く反応したら、待ってたみたいじゃないか?
迷って反応しないでいるとまた、ナマエっ!と声がかかる。

せめてもの抵抗に、消極的に見せるためゆるゆると起き上がる。パッと開いた視界のあまりの眩しさに顔をしかめた。ぼさついた前髪を整えながら返事をする。

「…なに」
「こっちこいよ、紹介してやる」
太陽のように明るい笑顔がまた眩しい。きゅっとまゆを寄せながら、ガタガタと椅子を引いた。

周りからの目線を気にしないようにしつつ近づくと、伊達のほかに四人集まっていた。

「きたきた…、コイツがミョウジナマエだ」
「へぇ、よろしく。俺は萩原研二、そしてこいつが松田陣平」
長めの髪の男が手を差し出してくる。伊達をチラッと見上げれば、にかっと笑われた。手を取るとブンブンと握られる。目尻を下げる笑い方が印象的だった。

隣の男は癖毛で、挑発するような目つきが印象的だ。顔を見れば、へぇ、と眉が上がった。
「女みたいな顔してんな」

かっと頭に血が上ったのが分かった。ガッと掴みかかろうとしたら、襟を伊達に引っ張られていて、危うく首が締まりかけた。うぐっと変な音が出て、慌てて手が離される。どさっと落とされて、ぶつかった椅子と机が倒れて騒々しい音をたてた。

松田は萩原に肩を掴まれて、小声で何かを言っている。不満げに口を尖らせているから、きっと小言でも言われているんだろう。ざまぁ、と口パクすれば、アイツはバカにしたように眉を上げた。


ホコリだらけの床に落とされたから、制服も埃にまみれた。座ったままはたいていると、知らない手が目の前に差し出された。

「大丈夫か?」
苦笑したように手を差し出した彼は、俺は諸伏景光、と名乗った。手を掴むと思ったより強い力で引き起こされる。大丈夫、と返せばよかったと言って笑った。

倒した机達はすぐさま伊達ともう一人に直されていった。金髪に色黒とちょっと珍しいカラーリングの彼は目が合うと降谷零と名乗った。意志の強そうな瞳をしていた。


すまんすまん、と言いながら伊達が髪をかき回す。その腕を払い落としながら、松田にごめん、と小さく謝る。掴みかかったのは俺の方、確実に俺が悪かった。

「…おう、オレも」

目線を合わせない謝罪はどちらの胸にもキチンと届いた。



「よっしゃ、飯行こうぜ!」
萩原の場違いに大きな声で、一斉に食堂に歩き出した。
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