バレンタイン



冬の空気が肺に冷たい。寒さで悴んだ手を握ったり開いたりしながらマフラーを引っ張るようにとった。

「よっと…」

どっさりと中身の入った紙袋を机の上に置くと、二人の顔が軽く引きつる。

「こんなあんのか…?」
盛大に顔を顰めたじんぺいくんは今すぐにでもかえりたそうだった。眉間に刻み込まれたシワが深い。


紙袋の中身は女の子から引き受けてきたチョコレートだった。カラフルなラッピングはモノクロな冬に浮いて見える。作っている時の気持ちもこんななのかと、思いを巡らせた。

俺は兄さんたちと同じ高校を受験して見事に合格することができた。兄さんとは3歳差だから、萩原が卒業したと思ったら入学したので、先生方にはよく声をかけられる。兄さんは高校でも相変わらずだったらしい。萩原弟は落ち着いてるな、なんてよく言われる。そんなこともないと思うのだけど。

三年前に卒業したのに、未だにモテる理由。
いまの高校三年生は、兄さんたちが三年だった時の一年生。先輩相手に勇気が出なかったと諦めていたところに俺が入ってきた、とのことで、一年生の頃から何故か兄さんたちの分も渡される。
顔を真っ赤にして、興奮気味に押しつけられると断る、なんて選択肢は勝手に消える。
なので仕方なしに持ち帰っている。


ほー、っと言いながら紙袋を漁る兄さんを横目に、自分のチョコを齧る。甘さがじんわりと広がる。なかなか美味しい。

「おっと、これは一年生のかな?」
ニコニコと楽しそうにチョコレートを広げてメッセージカードを読む。多分、世界で一番バレンタインを楽しんでいるだろう。

「なんで15のガキのチョコが毎年増えんだ…」
「まあ、先輩方がお話してるらしいよ」
チョコを摘んでブツブツいうじんぺーくんは兄さんとは正反対だった。無慈悲にも机のへりに押しやられたカードが切ない。


しばらくぽりぽりとみんなで食べているとじんぺーくんが机に突っ伏した。遂に脱落したらしい。

「あ゛〜、もう無理だ…口があっめぇ…」
吐きそうになっている横で兄さんがニヤニヤ笑う。その手には大量のチョコがあった。



「さすがに辛いわ…」
ぶつぶつ言った兄さんは唐突にマグカップを出してきた。その中にバキバキにしたチョコを無造作に放り込む。なかなか、酷い扱い。ぼそっと言えば食べないよりマシ!と言い返された。

マグカップに牛乳を注いでレンジに入れる。数分経てば簡易的ながら、ココアが完成した。

「あー、これならまだいける」
ソファに座って飲み干す兄さんをありえないものを見る目でじんぺーくんが見つめた。



ちょっとづつ食べていると紙袋の底が見えてきた。手作りと思わしき物は残っていないか確認する。日持ちしないから今日中に食べておきたい。
メッセージカードを束ねて輪ゴムで留める。後でしまっておこう。

席を立つと俺の倍近い量があった二人のうめき声が聞こえて、思わず笑った。


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