勉強



定期テスト。
多分学生が嫌いな言葉ランキング上位に入るんだろうな、と梅雨前のくせに蒸し暑くなった室内でシャーペンで書き殴った計算式を睨みながら考えていた。少し前に入れた麦茶の氷が溶けて、カランと涼しげな音を立てた。ガラス製のグラスについた結露が机の上で小さな水溜りになっていた。

次の中間テストは学年が上がっての初めてのテストだ。どうしたって印象に成績は関わるものだし、どこからか知られた成績が意外と低くて、思ったより頭良くないんだな、なんて思われたくない。要するにバカにされるのが嫌なだけ。
まあまあ不純だと思うけれど、勉強するのに理由なんてなんでもいい。勉強するという結論が大事なだけで。

開いたワークの赤インクで印がついた問題を片っ端から解き直す。残念ながら俺には公式を一目見ただけで覚える目も、前日勉強しただけで成績上位者になれる頭脳も無かった。それどころか理系全般苦手だし、嫌いな科目の勉強は楽しいとは思えない。
数学のワークを開いて無心で問題を解いていると、いつの間にか兄貴の部屋に遊びに来ていたらしい陣平くんが後ろから覗き込んできた。

「うわ」
「おうおう、精々がんばれ」
死ぬほど驚いたのを隠すように麦茶を飲んだら手が結露でびしょびしょになった。まあいいかと服で拭う。ふわっとした髪が暑苦しそうだ。兄貴も階段からどたどたと騒々しく降りてきた。

「あっつ…ふざけてんのかよ…ふざけんじゃねぇよあっつ…」
ぶつぶつ唱えつつ、冷凍庫からアイスを取り出して咥えている。家の中でクーラーがよく効くのはここ、リビングダイニングだけだから部屋から脱出してきたみたいだ。ワークやらノートやらでテーブルを占領していたので一応端に押しのける。どかりと俺の横のイスに勝手に座り込んだ陣平くんの横から、彼の正面に回り込むと、兄貴から俺らに一本ずつアイスが投げ渡された。反射で棒じゃないところをビニールの上から掴んでしまった。どろっと若干溶けた。


若干溶けたアイスへの苛立ちを消すように、食べながら問題を解いていると兄貴たちが他のワークを開いてあーだこーだ言い始めた。

「なっつかし!見てみて、運動方程式」
「F=ma」
「よく覚えてんな」

「ええじゃないかって未だよくわかんねぇなって見るたび思う」
「それな」
「集団乱舞とかそんなことある?」
「夏祭りみたいなもんじゃね」

「みてみて『こころ』」
「K…」
「俺お嬢さん結構すきだった」
「死ぬぞ」

「イオン化傾向」
「あったなそんなん」

中々うるさい。馬鹿にされたくない一心で無視して問題を進める。
ふと、顔を上げるといつの間に話題は移っていたらしい。

「名前来月いつ空いてる?」
「え、週末ならいつでも」
「花火しようぜ」
「花火?手持ち?」
「俺打ち上げやりたい」
「公園行こうぜ」
「そこの公園、なんか前ヤンキーが打ち上げして、木に火ついて一本焼けたとかいって禁止になってた気がするけど」
「まじか」

じゃ、川原とかは?いいんじゃね。
だらだらと続く会話をBGMに、テスト明けの楽しみが一つ増えた事に問題を解く手が早まった。


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