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兄弟だからか尊敬していたからか兄とよく似ていると言われるようになった。全く自覚はなかったし言われた時は面食らった。なんでもって、『チャラさ』まで似ているらしい。憧れて嬉々として真似をして癖に、そっくりだと言われるとアイデンティティが無いと言われている気分になった。自己の全てを否定されたような気分だった。お前は誰だ、兄の劣化版じゃないか。全てを愛想笑いで返しながらひっそりと兄との差異を探し続けた。時にはむりやり差異を生み出して存在証明をしようと足掻いて、荒んだ心で兄を恨んだ。それでも素直な弟の心がどこかで兄を慕い続けていた。

なんだかんだと言いながら根本は変わらず自分は生まれた時から弟で、兄さんの後を追いかけるようにして育っていた。ある日いきなり、兄さんが警察官になると宣言した。あまりにも唐突だった。

「えっ?」
「だから、俺警察官になるから。じんぺーちゃんもな」
「...母さん達には言ったの」
「これから」
「じゃあ何で俺に先に言うんだよ」
「宣言だよ」

当時はよくわからなかったが決意が堅いのだけは感じ取れた。今思えば思春期に父の倒産を目前にした兄は何か思うところがあったのだろうか。
「あぁ頑張れよ」
首を傾げながらもシンプルに応援したときに、鮮明に記憶がフラッシュバックしたのを覚えている。

立ち上る陽炎
零れ落ちる涙
頭に置かれた手
止まっている白バイ
青い制服姿
力強い眼差し

幼い頃に誰にも告げずに決心した『しょうらいのゆめ』。今の今まで忘れていた大切なものをいきなり思い出して、階段を降りていった兄さんを慌てて追いかけて両親に並んで宣言したのを覚えている。確か兄さんに物凄く驚かれた。真似して言ったんじゃあないと、理解してもらうために思い出まで説明させられた記憶がある。


そんなこんなでひょこひょこと警察学校まで兄さんを追いかけていって今にも至る。兄と比較され続けながら、兄との違いも多くなった。周囲からは似ているだとか似ていないだとか好き勝手な事を言われている。当時は自由気ままに見えたが今では兄なりの苦労も想像できる。この人も色々とあったのだろう。
俺は見事に白バイ隊員の登竜門も突破して、晴れて白バイ隊員になった。あの日は一生忘れないだろう。兄の同僚にいきなり囲まれて揉みくちゃにされた記憶は新しい。


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