返礼



「萩原ぁ!!」
びりびりとガラスの窓を震わせるような罵声に、咄嗟に思い切り背筋を伸ばす。顔を真っ赤にして叫んだ教官は、怒りのあまりかブルブルと震えている。
それを恐る恐ると見ていると、鋭い目つきをした副教官と目があって、俺はぴしりと石化した。


悲劇が起きたのは今日の朝。
授業で使う、支給された赤い笛を同じ班で同室のヤツが紛失したことが発覚したのだった。
翌日に必要な物ぐらい準備しておけと思うのだが、死にそうな顔をして部屋中をひっくり返している彼に、そんな事は言えなかった。

基本的に、警察学校で支給されるものは税金で支給されている。だからこそ、毎日のように、大切に扱うように教官から罵声を浴びせられる。きっと税金泥棒なんて言われない為だ。
そんな訳で、勿論無くすなんて以ての外。さらに無くした事を隠したなんて知れたら、更に恐ろしい事になるのは目に見えていた。
素直に無くしたと謝りに行けとアドバイスをすると、まるで戦地に赴くような目で彼は頷いた。


そして、この罵声だ。
もう1時間は経っただろうか。
班員が全員呼び出され、横並びに立たされた。
同じ班で、同じ部屋だからといって、相手の笛の管理まで求めるな、と言いたいところだが、そんなことを言ったらどうなるか分かったもんじゃない。しかも教官はどうも、兄さんと俺を重ねて見ているようで、怒鳴られていることの3割は俺の身に覚えのない事だ。あまりに理不尽。

「聞いてるのか!?」
「もちろんです!!」
脊髄反射で馬鹿みたいに大きな声で返事をした。ここで小さかったら、あ?聞こえねえぞ!?と言われるのが落ちだろう。教官が言うに、警察学校お決まりの連帯責任らしい。副教官に、班員は退出!校庭10周!と叫ばれ、それにビシッと敬礼した。
部屋に残された彼の握りしめた拳が、ドアから出る時、やけに目に残った。


「ほんとごめん!!こんな言葉で言い足りないのはわかってる…!」
今にも自決すると言い出しそうな顔で土下座する彼に、班長がぼそりと、本当迷惑。と呟いた。冷めきったその声に、彼はびくりと身体を震わせ、床に額を擦り付けた。

「…班員の食券三日分」
班長の声に、別の班員が耐えきれずにニヤリと笑った。高木はそれを聞いて、困ったように笑う。
勢いよく顔を上げた彼に、眉を上げて口端を吊り上げると、彼は泣きそうな顔で笑った。


prev top next
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -