規約



サシャとレギュラスが食事を終えて寮に入ると、暖炉の前では多くの生徒が話し込んでいるところだった。少し離れた場所には机と椅子が数個並び、机からレポートを垂らして書いている寮生が多かった。
湖の水の中からぼんやりとした光が入る。薄暗いランプと、暖炉の温かな光だけが浮いていた。肌寒くなって来たからか、先輩が作り出しただろう青い炎がビンに入れられ並べられていた。

サシャとレギュラスが暖炉近くに近づくと、そこのソファーに腰掛けていた先輩が床を蹴るようにして椅子から立ち上がった。それに驚いたのか、レギュラスが弾かれる様に後ろに飛びずさる。そして何事も無かったように肩に鞄を掛け直した。

「ブラックか」
よろしく、とレギュラスに手を差し出すと、彼はにこりと笑った。サシャも握手を求めら、がしりと手を握られる。ゴツゴツとした力強い手だった。名乗られたファミリーネームは聖28一族のもの。この人は"大丈夫"だ。去年はほとんど関わりが無かったが、今年はレギュラスがクィディッチに入るらしいから、クィディッチメンバーの彼とも接点が増えるだろう。

座るかと寮で一番ふかふかのソファを示されて、レギュラスが控えめに断ったのをサシャは横目で見た。
ゆったりとカーブした階段を登り、ドアを開けた。6つの天蓋付きベッドが並び、深い緑と銀で整えられたその部屋は談話室と同じく仄暗い。

鞄を置いて羽ペンや羊皮紙を取り出す。宿題に、変身術でレポートが課されていた。

「レグ、下行くか?」
「あぁ。図書館にでも行くか」
レギュラスの言葉に、サシャは分かったと頷いて、要らない教科書とノートを取り出した鞄に羽ペン達を詰め込んだ。かなり軽くなった鞄を抱えて、寮を後にする。
どうも、学年より血筋で上下関係が決まるこの空間は落ち着かない。その事には家でもそうだから慣れているはずなのに、サシャはレギュラスと2人でいる空間が一番落ち着くのだった。


シンとした図書室には、ぱらりと参考にする本のページを捲る音が大きく響く。サシャのかりかりと羽ペンで書く音はすっかり止まってしまった。
『変身術の論理とその活用の歴史』。レポートの堅苦しいテーマにサシャは手を止めていた。参考にと本棚から持ち出した本は、些か小難しい。
今日やった実技も、ほとんど論理は分からないでやっていた。時折手を止めながらも、サラサラと羊皮紙を埋めるレギュラスとの実技の差はそこにあるんだろうか。

席を立って、本棚にもう少し簡単な本を探しに行く。
_『トロールとマダムホワイトの変身術』
_『はじめての変身術』
_『変身術全容辞典』
_『針からアニメーガスまで〜これで貴方も完璧に〜』

大量の本を前に、何を選べばいいのか分からない。さっきはレポートのテーマから近そうな物を抜き出していったが、難しいとサシャには理解できない。マダムピンスに相談してみようと、カウンターに向おうとすると、赤毛の女子生徒が本を目の前にずいっと差し出してきた。

「……なんでしょうか」
「変身術のレポートの参考資料を探しているんでしょう?これが分かりやすいと思うわ」
咄嗟に、ありがとうございますと受け取ってしまった。たっぷりとした赤毛の彼女はふわりと笑い、そのレポート、後輩が大変だと言っていたのを聞いていたのよ、と言った。
それを聞きながら、サシャは彼女から本を受け取った事を後悔していた。

彼女のネクタイの色が、真紅だったからだ。スリザリンとグリフィンドールは常に対立している。話しかけられるのはまだしも、話しかける事はしてはいけない。それが暗黙のルールだった。

きっと、図書館の奥の本棚だ、誰にも見られていないだろう。話しかけられたのだから、大丈夫だろうかと誰ともなく言い訳をする。
彼女は半純血だろうか、それとも__。
少し俯いたサシャを見て、彼女も少しだけ表情を固くした。スリザリンとグリフィンドール。その組み合わせは少し目立ちすぎる。

お役にたつと嬉しいわ。
サシャに話しかけた時と違う固い声で、ローブを翻し、去っていってしまった。

その本を抱えて、レギュラスの元へ戻る。彼は羽ペンを持って、本を捲っているところだった。
サシャが『歴史で分かる変身術の全て』を机に置くと、レギュラスは興味深そうにそれを覗き込んだ。
はらりと表紙を捲ると、簡潔にまとまった変身術の歴史がいてある。これと、最初の参考文献を照らし合わせれば、レポートはなんとか書ききれそうだった。



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