神様の戯れ 2



「いい匂いがするね」

「ホントだ!」

「う、わっ!?」

「ぜ……っ、全王様……!?」

卵をミルフィーユのように重ねていると、背中に重みがのしかかった。何事かと思ってその正体を確かめようと顔を向けると背中に全王様たちが乗っていた。トキハの状態(全王様たちが背中に乗るというある意味苦行な状況)にザマスは戦慄して声が裏返る。

「もうできた?」

「あと、もう一個作ったら終わります」

「これが玉子焼き?いい匂いがするね!」

「ね!それにこんなにいっぱい作ったの?」

「はい!全王様たちがどんな味が好きなのか分からないのと、みんなで食べた方が美味しいかなって思いまして」

「みんなで?」


玉子焼きは色々な種類のものがあった。中に何が入っているのか分かるように、玉子焼きの上にちょこんとその具材が乗せて工夫されている。ネギ塩、桜エビ、ピーマン、ちょっとこんがり焼けた甘い卵焼き、スタンダードなだし巻き玉子、カニカマ入り、チーズ入り……様々な種類が台所の上を占拠する。

その玉子たちを見て匂いをくんくんと嗅ぐ全王を見てニコリと微笑む。その後に、トキハの言った言葉に首を傾げる。


「神様のお話とかでも他の神様と一緒に食べたりする場面もありますよね。人も一緒で、1人で食べるよりみんなで食べる方がより、美味しいですよ!」

「そうなんだ!」

「じゃあみんなで食べよう!」

「!?」

急遽、決まったことにザマスは驚いて声も出ない。全王様たちと食事を共にするなんて苦行の苦行。味もしないだろう。そんなことを提案するトキハに恨み言を言いたかったが、全王様たちやザマスに向ける優しい瞳に口を噤む。トキハの優しい微笑みを見て、ザマスの冷えきった胸の内がホワホワと暖かい。

「(なんだ…、このあたたかさは)」


知らないあたたかさが広がる胸元を掴む。


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「色んな味があっておいしいね!」

「ぼくはこの小さいエビのやつが好きなのね!」

「良かったぁ…、色々作ってみて正解でしたね」

もぐもぐと頬張る全王様たちを見てホッと息を吐くトキハ。それを見ながら玉子焼きを頬張るビルスは隙を見て、トキハの首根っこをつかみ引き寄せる。やや乱暴な行動だがトキハが転ばないような気遣いはされていた。ウィスは上品に頬張りながふよふよと近づく。

「トキハ、余計なことしたでしょ」

「よ、よふぇいなひょほ…?(余計なこと?)」

「全く………、ボク達をこんなに困惑させたり焦らせるのは悟空だけで十分だよ」


トキハはビルスにムニィーーーーっと限界まで頬を引き伸ばされる。それによってつい、舌っ足らずになってしまうがトキハは何故そんなことをされるのかと困惑する。トキハが理解していないことを分かっているのか、『フン!』と鼻を鳴らすビルス。

「全王様と食事するだなんて……よくそんな発想に到ったね(恐怖の方が強いから味なんて楽しめない……とは言えないけどね)」

「だ、だって…ビルス様も悟空さんたちと一緒に食べたりしてますから、その方がいいかな、と思って……」


「それは時と場合があるの」

「はぁ………、?そうですか?」

「そうなの」

変に素直なところがあるトキハに手が負えないと、頭が痛くなるビルスはこめかみを押さえる。そんな様子を見ていたウィスは楽しそうにクスリとひとつ笑い口を開く。

「こんな大勢、界王神と破壊神で食事をするなんてありませんから良い機会になったんじゃないですか?」

「フン!こんなに集まっても特にすることないでしょ」

『ゆっくり味わえないし、』と拗ねるようにプイッと横を見るビルスが、拗ねた子供のようで思わずウィスとトキハは顔を合わせて小さく笑う。


「トキハさん、ここにいらっしゃったのですね」

「ゴワス様にザマスさん!あの、さっきはお手伝いして頂いてありがとうございます」

「いえ、大したことは出来ませんでしたし……」

「でも、途中から卵をいっぱい割ってもらったりかき混ぜてもらったりしたので助かりました。結構、大変なんです。混ぜるの」

「ザマスが少しでも役に立ったのなら良かったです」

ビルスとウィス、シンに挨拶をした後にトキハへと向き直る。トキハもそれに倣い、ぺこりと頭を下げながら挨拶をする。挨拶をした後は料理の手伝いについてのお礼を言う。

ゴワスはトキハの作った玉子焼きが気に入ったことや美味しかったなど感想を伝える。トキハもそれを嬉しそうに聞きながら作り方やアドバイスをしながら、ザマスが作った玉子焼きはどれかなど談笑する。

それを皮切りに様々な宇宙の破壊神や界王神が話しかけにいったり、遠くから見ていたり、何故か『うちの宇宙に来ないか』と勧誘したりとトキハの周りに人(?)だかりができた。もちろんビルスの弟のシャンパもその中にいる。


「おや、面白くなさそうですね。ビルス様」

「ふん、別に……むっ」

胡座をかき頬杖をついてトキハに集まる界王神や破壊神を見ていると、ウィスが隣に立ちながら不貞腐れるビルスに声をかける。ムスッといかにも機嫌が悪いですオーラを放ちながら、尻尾をピシピシと地面に叩きつけていると、ふと、トキハの匂いが近づいてき事に気づき閉じていた目を開けるとシャンパに腕をつかまれこちらに向かっていた。


「なんのつもりだい?」

「ふっふっふっ…ビルス、こいつは第6宇宙に連れていく!」

「えっ、えっ???えっ!?」

「オレの宇宙に来たいそうだ!キャベやカリフラもいるからな!!なっ!!」

「え、あ?え???」

「なんだと…………………?」


『ふふん!』と得意気に話すシャンパにビルスは低い声を出す。話についていけてないのだろうトキハは頭の中が『?』で埋め尽くされる。ウィス達付き人は『おやおや』と"いつもの"ことだと特に止めはしないが、界王神の期限を損なわないように様子だけ見守る。


「トキハは美味しいものをいっぱい知ってるようだからな、第6宇宙にこさせてやろうと思ってな」

「ふん、あんな何も無いところに連れて行ってもトキハの得になんてならないでしょ。それに大方、無理矢理でしょ」

「ふん、言ってろ。トキハは連れていくからな」

「連れていくも何もトキハは元々、第7宇宙の人間だからそっちに行く必要なんてないよ」

ビルスはシャンパが掴んでいない方の腕を掴みながら声を荒らげる。シャンパも負けじと言い合うため、間に挟まれているトキハは生きた心地がしなかった。悟空とベジータでも敵わない破壊神に左右囲まれては、たとえAEGでも敵うわけがないため早くこの言い合いが終わらないかと冷や汗をかく。

助けを求めようとウィスに視線を送れば、さすがにこれ以上ヒートアップしては拙いと考えたのかヴァドスと共にお互いの付き人をしている神にゴツンと杖を叩きつける。双子の破壊神はあまりの痛さに頭を抱える。

「「ウィス!!!!/ヴァドス!!!!」」

「言い合うのはいいですが、トキハさんのことも考えてくださいね」

「それに、全王様もいらっしゃいますし」

「「うっ、!!!」」

かなりヒートアップしていた2人は、付き人の"お仕置"で冷静になったのか正気に返る。何より2人を正気にしたのは全王の存在だろう。こんな所で破壊されては溜まったもんではないと思ったのだろう。それに加えて、破壊神が一人の人間で言い争うなど他の破壊神からしたら格好のネタである。ぶすくれながらもシャンパはトキハから手を離す。

そして、何も言わずにトキハに手だけ降って去っていった。見てないとわかっていても、なんだかんだ優しいシャンパに手を振り返す。そもそも、トキハを第6宇宙に誘ったのは話の中でキャベやカリフラたちと『また会いたい』とトキハが言ったためである。そのことをビルスに伝えると『アイツ……』とボヤきながらズルズルと自分の席へとトキハを引きずっていく。

「全く、お前は第7宇宙の人間である意識が低すぎるよ」

「す、すいません……でも、ありがとうございます 」

「?なにがだい」

「私のためにああやって言ってくれたんですよね」

『ふふっ』とはにかみながらお礼を伝えるトキハにビルスはむっとした。と言うよりは、やけに嬉しそうに恥ずかしそうに微笑む人間が可愛らしいと思ったからだ。極たまに修行をつけてやる悟空たちとは違い、なんだかふわふわとしたその存在に意識をとらわれる。最初こそ、ゴッドイーターだのと巫山戯た名前を持っていると毛嫌いしたが一度懐に入れてしまえば、何故だか離し難かった。


神の心を喰うなんて、


「ふん、どっかにフラフラしてるとそのうち、キミのこと破壊しちゃうからね」


「えっ!!??そ、それはとても困ります………!!!!」


あわあわとするトキハの額にバチンとデコピン(かなり弱めだが痛い)をして鼻歌を歌いながら、トキハの作った甘い玉子焼きをもぐもぐと食べ始める。甘く優しい味はビルスの口の中で解けて消えていく。ビルスの尻尾は機嫌が良さそうに大きくゆっくり振り子のように揺れていた。







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