荒神



平和な一時を崩したのは他の誰でもないフリーザだった。いち早く、フリーザの大きな気を感じ取ったピッコロや悟飯達は、トキハやクリリン、亀仙人などの仲間を連れて多くの人々や都市に被害が及ばないように遠く離れた山に囲まれ、岩肌が見える海岸線で戦闘を繰り広げていた。せめて、悟空とベジータが地球に来るまでの時間稼ぎのために。


「ぐっ……!?こんな数の戦闘員を捌くのは骨が折れる……!」

「ピッコロさん!!!」

「すまん…!トキハ、助かった!!」


トキハも多くのフリーザ軍の戦闘員の相手をしながら周りを警戒していると、フリーザと視線が合う。ニヤリと笑うフリーザに顔を顰めて睨み返しながら、ピッコロたちの援護へと駆け寄ると、フリーザがふわりと浮かびながらトキハに向かって声をかける。



「フフフッ…!ですが、今回の目的はソンゴクウさんではありませんから……トキハさん、貴女はどうやら普通の人間とは違うようですね」

「!?………だから、何だって言うんですか」

「いえ、ちょっとした余興…には良さそうですね」

フリーザの言葉に嫌悪感から眉根を寄せる。フリーザの言葉の意図が読み取れないトキハは睨み返しながらも、一層警戒を強める。


「キエエエェェェェエ!!」

「!!!」


一瞬だった。フリーザから放たれた強力な技はトキハの腕輪を射抜き粉砕する。この後に自分がどうなるのか、どんな状況に陥るのかを理解しても止められない、抑えることが出来ない衝動とその状況にトキハの表情は絶望の色を濃くする。

AEGはゴッドイーターと違いアラガミに近い。だからこそゴッドイーターはAEGに対して嫌悪感を抱く者もいる。言わずもがな、自分達が敵対している存在に近いという理由もあるだろう。

だがしかし、それ以上に、ゴッドイーターに比べてリスク、危険が高いのは


『アラガミ化』


高い適応能力、戦闘力を有するためにAEGが負うリスクは自分自身が『アラガミ』になる可能性が高くなるということ。今まさに、トキハはその危険に直面した。


アラガミ化した者を救う手立てはなく、唯一の方法は、


『介錯』以外、


無い。


「みんな…っ、無事か!?」

「お、お父、さ」

「ご、悟空!!!大変なんだ……っ!!トキハが、!!」

「おい……!なんだあれは………!!!」

ブルマからの連絡で急いで地球へと戻った悟空とベジータ、ウィスとビルス。今までの状況を知らない悟空とベジータは悟飯達の焦燥と驚愕を受け止めきれず困惑する。それでも、感じたことの無い"悪"の気配に今まで対峙してきた敵とは違うと総毛立つ。

「なんだか………嫌な気だねぇ…」

「えぇ……、背中が震えました」

「あぁ、ボクも……らしくなく"恐怖"を一瞬、感じてしまったよ」

"飢餓" "恐怖" "力" この世全ての悪や欲望を混ぜ合わせたような混沌が目の前で現れようとしている。力の根源がトキハの身体から



「ぐッ、がァ、ガァアアアアアっ!!!!!!」


獣のような雄叫びを上げるトキハ。その声は普段の穏やかな彼女とはかけ離れ、怨嗟、殺意、満たされない飢餓感にまみれた、真っ黒いドロドロとした泥のような感情がトキハを支配する。喉が焼けるように熱く、神機を振るう細い腕は鋼鉄のように固く暗闇のように真っ黒な鎧のように、獣の腕に変質していく。

闇はどんどんトキハを侵食していく。トキハの姿は異形へと変わる。

自分の姿がアラガミに変わっていくのがわかる。意識が飲まれそうになる。嫌だ、嫌だ。この人たちを傷つけたくないのに。


「う、グゥッ、!!!!」


「トキハ!!!」


「ち、かづくなっ!!!ちか、づかない、で………っ!」


わわ
「目を覚ましてください!!トキハさ、!」

悟空達がトキハを助けようと近づくと、残った理性でアラガミ化に耐えるトキハが、息を荒くつきながら血反吐を吐くように言葉を紡ぐ。浅く息を吐き、頭を抱えて何かに耐えようとするそんな姿を見ていられないと悟飯が近づこうとした瞬間、トキハの拳が眼前に迫っていた。

それに何とか反応した悟飯は首を捻ってギリギリで避ける。トキハの異形の腕は空間を切るように、空気を強い音を立てる。拳の風圧で悟飯の頬が鎌鼬で切られたようにパックリと肌が切れる。

トキハと目が合った悟飯は背筋がゾクリと凍る。ホライズンブルーは血のように赤色に染まり悟飯を狙う。隙あらば、追撃を加えるその姿はトキハではなく、"別の存在"のよう。

「悟飯!!!」

「くそっ!目を覚ましてもらうぞトキハ!!」


悟飯への攻撃に遅れをとったピッコロが、トキハの気絶させようと首へと手刀を仕掛ける。防御の構えを取らないトキハに、隙を見たピッコロはこれでとりあえず落ち着くだろうと思った瞬間、トキハの回し蹴りが顔面にめり込む。

「がっ………!?」

ノーガードで受けた攻撃は速く重い一撃で、ピッコロの大きな体を容易く吹っ飛ばす。空中に投げ出された体は体勢を立て直せず土煙を上げる。


「ピッコロ!!大丈夫か!?」

「ぐっ、な、なんとかな………、しかし、なんだ、あの力は……!」


バキバキと音が鳴るように金剛石のような高度を持つでアラガミ"に身体が飲まれ始めるトキハは苦痛の声を上げる。

「う、ぐっ、ぁああ!!!!」

「トキハ!!!」

「っ、悟空!!!」


苦痛の声を上げるトキハに近づき両腕をつかみ押さえる。ぐぐぐっと、腕を顔の前からどかす。握りしめた手からは爪が食い込み血が滲んでいる。

ボロボロとこぼれる涙。ホライゾンブルーは赤く濁り血のように濡れている。噛み締めた唇からは鮮血が流れる。


「こ、ころ、して、殺して、くださ、おねが……!」

「トキハ!!!諦めんな!!!」

「い、ぃまなら、まだ、まにあ、」

「ふざけるな!!!!貴様を、殺してたまるか!!!」

トキハは悟空の腕を振り切り、自らの神機を手にする。
ベジータは自害しようとするトキハを羽交い締めにして動きを止める。動きを完全に封じられたトキハは暴れ出す。アラガミ化は止まらず、完全に半身を飲み込む。


「トキハ!!!オラを見ろ!!!」

「ぐ、うぁぁあ゛あ゛っ!!!!」

「トキハさん!!大丈夫!僕達がいます!!だから、耐えて……っ!」

羽交い締めされるトキハの顔を上げ目を合わす。憤怒する肉食獣のように歯を食いしばり、目が血走る。トキハは言っていた。アラガミ化が起きれば全てを食い尽くして、殺し尽くしても止まらない。治す方法はない……、と。それでも、救える方法を模索すれば、治る方法はあるかもしれないと言った時のトキハの、悲しそうな表情を、悟空たちは覚えてる。
『大丈夫』
その思いが通じるように、悟空は強くトキハを抱きしめる。一瞬、その動きが止まる。

それでも、


「ぅぐぅ……!がぁ、!!!!」

「ぐっ、!!!!」

ベジータから逃れようと地面を強く踏み、身体を前傾にし無理矢理引き剥がそうとする。目の前にいる悟空が煩わしいと言うように肩に噛みつく。生易しいものではなく、流血するほどに。

噛み付かれた悟空は痛みに顔をしかめる。噛み付く力を弱めず噛み付くトキハの頭を撫でるトキハ。


「辛かったなぁ、でぇじょぶだ。オラ達が傍にいるぞ」

「っ、ぅ、」

「トキハさん、大丈夫、大丈夫ですよ。僕達、トキハさんから離れたりしませんから」

「ふん、これが終わってフリーザを倒したらみっちり稽古をつけてやる」

「ふん、さっさといつもの間抜け面に戻れ」

「美味しいものいっぱい食べて、ゆっくり休もうぜ!!トキハちゃん!18号さん達も待ってるよ!」


「っ、ぅ、ど、して、」


「お前ぇが仲間だからに決まってるだろ。仲間を助けるのに理由なんて無ぇ」


「わ、たしは、悟空さん達に"仲間"なんて、呼ばれる権利なんて……っ、ない……!!」


「お前ぇ、そんな悲しいこと言うな。お前ぇが何度暴走したって、アラガミになっちまっても、嫌がっても、絶対ぇ諦めないからな」


赤色に血走っていた瞳は凪いだ海のように静かな色に戻る。ドロドロと渦巻く黒い気持ちは少しずつ薄れる。抱きしめていた悟空の優しい気と悟飯たちのあたたかい言葉と思いが伝導する。荒ぶる神が消えた訳では無い、それでも、人々の絆が共鳴作用を起こす。

あぁ、なんて、あたたかいのだろう。


「あり、がとう………」


ポロリと零れた雫は何よりも綺麗だった。







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