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▼ 眠る貴方の横で明日に思いを馳せる



「もう…離したりしないで」

そう言ったバレンシアがこの腕に収まり、肩を揺らしている。
それが凄く、心地良かった。

震えて涙で顔がぐちゃぐちゃになったバレンシアにこれまで無い幸福を感じた。

バレンシアは俺のことが好きだと言った。
所謂、ほかの女が俺に言うそれと同じなのだろう。
俺はこいつの事が嫌いだ。嫌いだからだろうか、こいつが他の人間と楽しく幸せそうに過ごしているだけで、心の底から腹が立つのだ。
今感じてるこの高揚感はきっと、泣いて縋るこの女が惨めで笑えるからなのだろう。

「レーベラ」
面を上げたその瞳は涙を溜めて月明かりがちらちらと光り、鼻と目元は赤く染まっている。

そんなこと今はどうでもいい。
離れるのが腹立たしいなら傍に置ければいいのだ。

バレンシアの額に垂れた栗色の毛を指ですくって、かき上げる。

無防備に顔を晒されたバレンシアは少し落ち着かないように瞳を揺らした。

まつ毛に乗った雫がキラキラと輝いて綺麗で、そこから伝う涙痕にキスを落とした。

逃れようとする肩と首を捉えて、じっと見つめると、バレンシアは面白いくらい顔を赤くした。

「……リンゴかよ」

口の端が上がるの感じた。バレンシアは表情に嘘が無い。無いと言うより嘘が付けないのだろう。

「見ないで……!」

今度は恥ずかしさからか、瞳に涙を溜めだした。そう隙だらけで反応が良いと虐めたくなる。被虐心を煽るその表情に、首に噛みつきたくなる衝動を抑え、まだ嗚咽が入り交じるバレンシアの口を塞いだ。

驚いたように肩を震わせ後ずさる。
固まった唇に舌を這わせた。

汗に混じって右手に絡みつく毛になんだかそそられて、唇から顎へ、首筋へと変えていく。時々漏れる声と、吐息が耳元で聞こえると、なんだか全てがどうでもよくなった。

邪魔くさいローブを払って、慣れた手つきで制服の隙間から手を這わせると、反応の良い身体がびくりと震えた。
恥じらいながらも、拒否なんてするつもりの無いバレンシアに、ついまた虐めてみたくなって、見つめてやると、やはり顔を真っ赤にして困ったように呻いた。

「みないでってば!」

全く迫力の無い抗議は、かなりそそられた。


再びその小さな唇にキスをする。
何度も、バレンシアが苦しそうにするのさえ楽しむかのように、快楽のまま貪った。

何か言葉が足りない事はわかっているけど、今は考えられなかった。


……





耳の隣で寝息が、規則的に時間を刻む。

シリウスは力尽きたように眠りに付き、私の肩に身を預け寝息を立てている。

一方私は眠気なんてものは全く無く、上気した頬が夜の風に一瞬で冷やされていったのはもう1時間ほど前のことだった。

汗ばんでローブが蒸れて熱かったのも、目が覚めるほどの寒気に変わっていた。

どちらともわからない体液が入り混じった口を拭う。
私は彼が好きだった。そしてその彼とこうなれて、凄く幸せなはずなのに、身体と同じようにその幸福感は一瞬で冷めてしまった。

訪れた静寂に愛しい寝息だけが木霊する中、それに反して私の頭は次から次へと騒がしく自問自答していた。

それは専らシリウスが私をどう思っているかについてで、満たされた幸福感を冷ややかに煽るには十分すぎる素材があったのだ。
頭の騒がしい住人は私に向かって、やれ遊びだの、好きだと言われてないだの、都合のいい女だと、避難を浴びせてきた。

私は肩に感じた体温に縋り付いて、必死にそれらを追い払った。

『レーベラ、俺だけを見ろ』

縋るような、余裕の無い表情で、彼は苦しそうにそう言った。

私を求めて、身体にたくさんキスをした。

あの熱をはらんだ瞳が本物じゃないなんて思わない。不安に足を取られそうになった心をなんとか落ち着かせた。

ただ……また彼が、ある日突然あんな冷たい表情をしていたら。
そう考えるだけで、心が冷や汗をかいて止まらなくなる。お腹の奥が落ち着かなくなって、涙が滲むのだ。

次はいつまで傍にいてくれるのかな。
原因が何かだなんてありすぎてわからない。私たちはもともと近くにいるべき者同士じゃないから。
でも、嫌いでも私を受け入れてくれたならそれはすごいことな気がする。
上手く言葉にできないけど。



「ん……」
隣で眠る彼が寒そうに身じろいだ。

魔法は長持ちしないので、ローブの懐からブランケットを取り出し、身を寄せ2人を包ませた。

「明日もこのまま……」

黒い髪が額にかかったのを、手ですくってキスをする。
世界で1番ハンサムな寝顔だ。
いつもは鋭い眉と瞳が、穏やかに優しく形を変えて、子供のようだ。

「おやすみ」

明日も貴方の隣にいれますように。






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