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▼ 破られた僕の孤城

4話 破られた僕の孤城

僕は戦慄した。

ソファに投げ出された黒に塗れるブロンドヘア、そして同じくブロンドの長くカールしたまつ毛を伏せさせた少女に。彼女は見惚れてしまう程綺麗だったが、ただし状況が悪い。ここは僕の部屋だ。誰にも知られていないはずの。

そして僕しか入れないはずの部屋でもあった。

一瞬、殺そうかと杖に手が伸びた。

だめだ、冷静になれ。ついこの前マートルを殺したばかりだ。ダンブルドアにも目をつけられている。

混乱した頭に必要な情報を入れるため、僕は辺りを見回した。
昨日飲み干したであろうワインの空き瓶が数本転がっていた。ドアは閉まってる。
そしてこの女は、レーベラ・バレンシアという名前だったはず。

僕は自分の知名度と人気を自負しているが、この女もまたそれなりにそれを持っていた。この端麗な容姿でかなり人気があったようだった。

家も純血で、利用価値はそれなりにある訳だが、僕はこの女が苦手だった。

この女と僕の性分は正反対と言っていいだろう。一言で表すなら、犬である。誰に対してもしっぽを振り、能天気で、鈍臭くて、騒がしい。僕が最も理解し難い人種だった。

彼女の口元をみると、微かに強ばっているようで、伏せられたまつ毛は時々ピクリと揺れた。

起きている。

彼女は狸寝入りを決め込んでいた。
動揺して気づくのが遅れたが、起きているようなら直接伺う他ない。

「君、起きてるんだろう。」

彼女は分かりやすいほど、気まずそうな顔をしていた。目を閉じているはずなのにわかりやすい表情は、僕が会心術を使う必要も無い。

しばらくして汗を滲ませてきた彼女は、観念したように瞼を上げた。

きらりと光る瞳は、僕と同じ黒。黒なのに透き通るような綺麗な色だ。

まじまじと彼女の顔をみたことがなかったけれど、思わず美しいと思ってしまった。

「ごめんね、恥ずかしながら昨日の記憶が無くて。
君は僕に連れ込まれたのかい?」

この部屋は秘密の部屋、では無いけれども、サラザールスリザリンが作ったもう1つの部屋だった。小さな書斎、秘密基地のような空間で、緑と銀を基調とした精巧な家具が備え付けられている。天蓋付きのベッドと、ソファの寝心地は、寮とは比べ物にならない。僕のお気に入りの場所だ。もちろんスリザリンの血を継ぐもの、パーセルマウスだけが入れる部屋で機密性も高い。

昨日の僕が酔っていたとはいえ、本当にこの女を連れ込んだとは思えない。

「それとも…君が僕を連れ込んだ?」

そっちもありえない話だった。この部屋の事は知らないはずだし、開けられるわけが無い。

「私、ここに迷い込んできて」

「どうやって?ここに入れるのは僕だけだよ。」

「どうやったかはイマイチ覚えてないわ。その扉が勝手に開いたの。」

「疑わしいね。」

「嘘なんて言わないわ」

僕は彼女の黒い瞳を見つめたが、曇りのない真っ直ぐな瞳だ。

「そのようだね」

とは言っても勝手に開くなんて、そんなことは無いはずだ。こんな事があらぬよう、散々本当に開かないか試したのだ。抜かりはなかったはず。

壁掛けの時計を見上げると、午前4時15分。

この女の記憶を後に消すことは確定しているが、正直その前に今回の原因がわからないまま返すのは少し気がかりだった。
皆が食堂に向かいだす時間にはまだ少し余裕がある。

「僕になにかされた?」

ただの興味本位の質問だった。

「……き、スとか」

彼女はぎこちなく、頬を赤らめてそう言った。

そんな記憶は全くない。やはり飲みすぎていた。
幸い最後までしていなかったことが救いだろう。彼女の記憶を消すことは簡単だが、自分に記憶のない事実が多いのはいささか不安だった。
心底気まずいと言うような顔をしているので、僕もこの話には触れないでおこうと思う。

それはそうと、何故ここに入れたのだろうか。
ここに入れる方法はパーセルマウスだけ…。

もしかして、彼女はパーセルマウスなのか?
馬鹿らしい考えが、頭をよぎった。
しかし、この部屋に入る方法が他にあるのだろうか。
彼女がもしパーセルマウスならこの部屋を見つけるのも、開けるのも苦労はしないはずだ。この部屋はパーセルマウスを呼び寄せる。


相変わらず、挙動不審に目を右往左往させている彼女に僕は蛇語で問うた。


『僕がいない間何かをした?』

『いいえ』

『何かを見た?』

『いや』

『本当に?』

『本当よ。』

驚くほど自然だった。彼女との会話は。


思わず自分が本当に蛇語を話していたのかと疑ったが、間違いなくそうだった。

彼女は何も驚いた様子はない。まるでさっきまでと何も変わらないようだった。ただ違うのはその音がシューシューという音だったくらいだ。



『君は、蛇語を話せる?』

僕は彼女にきいた。

『いえ、話せないわ。話したことがないわ。』

彼女はやはり無自覚な様だった。いきなり何を言うのかと眉を顰め、怪訝な表情で僕を見ていた。

彼女はパーセルマウスだ。


「…そうか、わかったよ。ありがとう


…オブリビエイト。」

浮かび上がった疑問はとりあえず置いておく。彼女には忘れておいてもらおう。

呪文を唱えると彼女は失神呪文をくらったように、どさりと再び柔らかなソファへと身を投げ出した。
緑色のソファに投げ出された四肢は白く美しい。何故か黒に塗れたブロンドヘアは不格好だが、その黒髪がさながら白雪姫のようだった。




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