東京空虚ラバーズ
一、愛想ラバーズ 二、正義ラバーズ
三、偽者ラバーズ 四、空虚ラバーズ

意表を突かれたらしい男子学生たちは間の抜けた顔で僕を見る。中心の男の子は信じられないという表情で僕を見ていた。
「どうぞ、続けて」
両手を差し出して、どうぞ、というジェスチャーをすると、彼らはにやりと笑って行為を続けた。
「なんで助けてくんなかったんだよ」
カツアゲをした彼らが去った後、顔にひとつだけ受けた拳の痕をさすりながら男子学生は僕に訊ねた。その場に座り込んだ彼は恨めしそうに僕を見る。最初から最後までただ見ていただけの僕を。
「正義の味方じゃなかったのかよ」
無造作に投げ捨てられた財布を拾って、彼はまた僕を非難した。
「君、最初から抵抗する気なんてなかっただろ」
彼から少しの距離を置いてポケットに両手に突っ込む僕を訝しげに見る男子学生。
「諦めてただろ」
僕の言葉に、彼は黙り込んだ。
「それに僕は正義の味方だなんて名乗ったつもりはないし、正義の味方でもない」
不機嫌そうに僕を睨みつける彼に微笑んでみせる。紙袋に隠れてそれは見えないと分かってはいたが。
「"紙袋くん"だ」
***
「君、いったい何をしたのさ」
朝から授業をサボって屋上でまったりしていた僕を見つけ、開口一番アキラは問いかけた。
「何のこと」
昨日と同じく寝そべったまま彼女の方を向きもせずに聞き返せば、可笑しそうなアキラの声が返ってきた。
「噂がたってるよ。紙袋くんは正義の味方なんかじゃない、悪の手先だって」
にゅ、と空を隠すようにして視界いっぱいにアキラの顔が割り込んできて、思わず眉を寄せる。
「何したの、千景くん」
アキラが問う。
そんなアキラの顔に手のひらを当てて僕の上から退かせて、なんてことないように答えた。
「カツアゲされてた高校生を助けなかっただけ」
言うと、アキラはくすくすと笑った。
「君と居ると本当に退屈しないなあ」
くすくす。愉しげに笑う。
「そりゃどうも」
決して褒めているわけではないであろう言葉を無理矢理肯定的に受け取って返事をする。


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