東京空虚ラバーズ
一、愛想ラバーズ 二、正義ラバーズ
三、偽者ラバーズ 四、空虚ラバーズ

彼女のほうを向きもせずに問う。
「友達の誘いを断ってたでしょ。授業に出るわけでもないくせに」
彼女の長く艶のある黒髪がいつの間にか視界の隅に入っていた。セーラー服のスカートの裾を気にしながら、彼女は僕の隣に両足を投げ出した格好で座った。
「行く気がしなかったから」
瞼を閉じて短く答える。
「君はほんとに愛想が悪いよね、ボクに対してだけ」
悲しむ風でもなくアキラは言った。
彼女の一人称は何故か「ボク」だ。出会ったときからそうだった。名前が男っぽいからかな、と適当に理由をつけて、僕は勝手に納得している。
「そんなことないと思うけど」
素っ気なく呟いてから自分の言い方の投げやりさに気付いて、確かにそうかも、なんて少しだけ思う。
「アキラに愛想良くする必要がないと思うだけ」
思い直して言い換える。アキラはさして興味もなさそうに「ふーん」と相槌を打ってから話を変えた。
「そういえばさ、今朝のニュース見た?」
「僕の家、もう電波入らないから」
「ボクん家だって入んないよ。町の端っこに粗大ごみがいっぱい積まれてる場所あるでしょ、そこのテレビで見てきた」
「見れるんだ。奇跡だな」
だから遅刻してきたのか、なんて細かいことは言わない。
「電池式の小さなラジオテレビだよ。白黒だし映像は馬鹿みたいに荒いけどね」
「見れるだけいいだろ。それで、何のニュースだったの」
「ついにこの町、国からも見放されたらしいよ」
感情の読み取れない声で、アキラはそう言った。
「どういうこと」
「ここはもう日本じゃないってこと。国からの補助金は完全にナシ、生活保護金も打ち切りだってさ。この町のほとんどの人が路頭に迷うだろうね」
「……かつての大都市が、この有様か」
十八年前、東京はとうとうその"都市"の名を大阪へ奪われた。五十年ほど前から都市部で急激に進んだ環境の劣化は留まるところを知らず、都市を完全に食い荒らした。緑は消えうせ砂漠化が進み、人々は新天地を求めて早々にこの地を捨てた。
人が大幅に消えた地で建物の荒廃は止まらず、あちこちに廃墟が出来上がった。少しずつ電車の本数は減り、ついにはバスまでもがなくなった。町は捨てられた建造物とごみで溢れ返り、町の規模はどんどんと小さくなっていった。
今では小さな村よりも細々と、この町は存在している。その周りを崩れた建物で囲まれながら。
「ボクらこれから、どうなるんだろうね」
「それは、僕ら次第」



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