東京空虚ラバーズ
一、愛想ラバーズ 二、正義ラバーズ
三、偽者ラバーズ 四、空虚ラバーズ 愛想ラバーズ

奇妙な噂がたっていた。警察も機能しなくなったこの町で、近頃正義の味方が出現しているらしい。カツアゲをやめさせたり悪漢から女の子を助けたりしているそいつの特徴は、ふたつ。
・ ふざけた顔が描かれた紙袋を被っていること
・ この高校の男子制服を着ていること
どこの誰かもわからないが、この高校に通う生徒である可能性はとても高かった。
いつしかそいつはこう呼ばれ始めた。
「紙袋くん」。



「千景(ちかげ)、今日帰り遊んでいかねえ?」
昼休み、クラスの大半の生徒が帰り支度を始める。学校なんてあってないようなもの、ひとつでも授業に出席すればその日の単位を得ることはできたし、学校に通わないからといって将来に影響するようなことは何もなかった。
この町の若者が自分の将来を考えることなんてなかった。どうせこの町の外には出られないのだから。
「いや、ごめん僕はいい」
「そうか。じゃあまた明日な」
「ああ、また」
誘いを断って数人の男子生徒の背中を見送る。姿が完全に見えなくなったことを確認してから僕は席を立った。
窓ガラスが何枚か割れたままの廊下を歩く。かかとを潰して履いている上履きがぱかぱかと鳴った。廊下の突き当たりの階段を上る。壁の張り紙はところどころ破れたまま色褪せ、もう何が書いてあったかもわからない。階段を最後まで上りきったところで鉄の扉に出くわした。鍵がかかっている。僕はポケットから合鍵を取り出し、鍵穴に差し込んでガチャリと開けた。
相変わらずの灰色の空。濁った空気に不快感が増す。
僕は迷わず扉の横に取り付けられたはしごに足をかけて上った。ここが、この学校で一番高い場所だった。
冷たいコンクリートに身体を預け仰向けになる。灰色の空と真正面に向かい合った。生ぬるい風が不気味なほど優しく頬を撫でたとき、授業の開始を告げるチャイムが鳴り響いた。その直後にガチャリ、と屋上の扉が開かれる音が聞こえた。僕は動じることもなく仰向けのまま空を見る。どうせここに入ることが出来る人物は僕を除いたらたった一人しか居ないのだ。
「どうして誘いを断ったのさ、千景くん」
はしごを上ってひょいと顔を覗かせる彼女の名前はアキラ。漢字で書くと[陽]。太陽の[陽]でアキラ。なんとも洒落た名前だと僕は思っている。本人には言わないが。
「なんのこと」



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