東京空虚ラバーズ
一、愛想ラバーズ 二、正義ラバーズ
三、偽者ラバーズ 四、空虚ラバーズ

「……悪いのはアイツの方だぞ」
「一言注意すれば済むハナシでしょ」
アキラの言葉に、少年は突然声を荒げた。
「言葉だけで理解し合えるならとっくにそうしてる! だがそうしないのは、口で何を言ったところで悔い改めない愚かな人間が居るからだ。この町が出来たのは何故だ? 空が曇り続けているのは何故なんだ! このままじゃ俺たちはかつての都市の人間と同じ過ちを繰り返してしまう。そうならないために、そうしないために! 過剰だろうがなんだろうが無理矢理でも変えていくしかないんだよ、人間を」
紙袋を被っていても、少年の鋭い瞳が想像できた。アキラが眉を寄せている。少年の迫力に圧されつつも、僕は意を決して口を開いた。
「……僕が正義の味方を名乗らなかったのは、」
少年の瞳が僕を捉える。
「アキラの言うとおり、自分の無力さを知ってたからだ。"紙袋くん"のすることはすべて自己満足でしかないと、解ってたからだよ」
「またそんな綺麗事っ……!」
「綺麗事だと思うなら、そう思ってくれて構わない。ただ、これだけは言わせてもらう。君のしていることは紛れも無い"暴力"だ」
ぐ、と少年が言い淀む。
「君の正義じゃ誰も救われない。町も、人も、君自身も」
ぎり、と少年が歯軋りをする音が聞こえた。
「紙袋を脱げ。君の正義は、誰も救わない」
瞬間、左から拳が飛んできた。
「千景くん!」
アキラの叫ぶ声が聞こえた。
間一髪で拳をかわし、後ろへ一歩下がる。少年は紙袋の中から僕を睨みつけていた。
「……アキラ。大丈夫だから下がってて」
アキラが唇を噛む。不安そうな表情をしながらも、眼だけは変わらず真っ直ぐだった。
「……お前は」
少年が低く唸る。
「お前は紙袋くんじゃない。俺が、本物の紙袋くんになってやる」
ぶん、今度は右から拳が飛んできた。後ろに避けてかわす。
「もし誰かが、誰かの物を盗んだら?」
拳を避けながら僕は静かに質問した。
「問答無用だ。ぶん殴ってやる。もう二度とそんなことできないように」
左下段の蹴り。手で受けてかわす。
「もし誰かが誰かを殺したら?」
左上段の蹴り。腕で止める。
「そいつを殺す。当たり前だ」
右中段の蹴りが飛んできた瞬間に、それを止めてそのまま掴んだ。少年がバランスを崩しかける。



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