東京空虚ラバーズ
一、愛想ラバーズ 二、正義ラバーズ
三、偽者ラバーズ 四、空虚ラバーズ

「君と一緒だよ。紙袋くん。僕はね、君の行動に感動したんだ。こんな町でもなお悪を滅し正義を貫こうとする君の姿勢にね」
彼の顔は見えないが、余裕そうな笑みを漏らしているであろう声色だった。まるで英雄を讃えるように。
「煙草の吸殻を捨てた人の骨を折ったのは本当?」
「ああ」
けろりと肯定が返ってきた。どうやら悪いことをしたつもりはないらしい。
「言っておくけど」
僕は声を張り上げた。
「僕は正義の味方だなんて名乗ったつもりはないし、そんなものになるつもりもない」
くすり。またもや少年が笑う。
「どこまで善人ぶるつもりなの、お前」
挑発のような言葉を投げかけられて、自然と眉根が寄る。
「こんな町で、こんな人間達に囲まれて! それでもお前は正義を欲した。それはお前が飢えているからだろう? 正義に、愛に、人々の感謝に!」
少年は一歩一歩を踏みしめながら僕に近付いた。
「お前は正義を貫こうとしながらも、リスクを背負わなかった。人が傷付けられるのは見過ごせないって顔をしながら、"正義の味方"と名乗るのが怖かったんだ。自分の力が及ばないときに責任を押し付けられるのがな」
じりじりと、僕と少年の間合いが詰まる。
「『どうして』、『正義の味方なのに』、『助けてくれるって言ったのに』。非難の声を浴びるのは誰だって怖い。でもだからこそヒーローってのは存在するんじゃないのか」
紙袋に開いた穴から、少年の光る瞳が見えた気がした。
「お前は確かに正義の味方じゃないよ」
少年の手が、僕の紙袋に伸びた。
「気まぐれに世の中を掻き回す、ただの臆病者だ」
ぐ、と少年の手に力が入る────
「違うよ」
澄んだ声が聞こえた。
「アキラ……」
どこから出てきたのだろう、アキラが少年の腕を握ってその手を制していた。どこまでも真っ直ぐな瞳が少年を射抜く。
「紙袋くんは臆病者じゃない。ただ自分の力の大きさを知ってるだけだ」
少年がゆっくりと僕から手を放した。アキラは少年を見つめることをやめない。
「誰だ」
少年が低く唸る。
「紙袋くんの友達」
なんとも簡素な答えを返してから、アキラはそのまま言葉を続けた。
「君の言う正義が人を骨折させることなら、そんな正義こっちから願い下げだよ」
アキラが挑むような目付きでそう言うと、少年は威嚇するような低い声を出した。



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