東京空虚ラバーズ
一、愛想ラバーズ 二、正義ラバーズ
三、偽者ラバーズ 四、空虚ラバーズ

***
「っ、てめっ……! 一体何のつもりだよ!」
赤い頬を手の甲で拭いながら、少年は声を荒げた。
「何のつもり? それは君が一番よく知ってるんじゃないの?」
間抜けな顔が描かれた紙袋を被った学生服姿の少年が冷静な声で返す。
「知らねえよそんなん! お前がいきなり殴りかかってきたんだろ!?」
「シラ切る気? そうはいかないよ。ほらここに、証拠品」
そう言って紙袋の少年は足元に捨てられていた煙草の吸殻を拾った。
「は……!? そんなん捨てただけでなんだっていうんだよっ」
「"だけ"じゃない」
反論を静かな声で制すと、紙袋の少年は両腕の袖をまくった。
「お前みたいのがこの町を創り上げたんだ。俺は自分の"正義"に従う」
「は、何言って……!」
がつ、人が人を傷つけるときに聞こえるその音が響いた。

***

久しぶりに授業を受けようと思い立ち、朝から教室で席に着いていた。一番左の列の後ろから二番目。いつも僕が座っている場所。チャイムが鳴り響いてやがてばらばらと生徒が席に着き始める。先生が授業を始めるが、聞いている生徒は半分にも満たない。隣の席では大声で噂話が繰り広げられていた。
「えー? 何それ本当ー?」
「本当だって。私の友達が見たって言ってたの!」
「紙袋くんを?」
ぴくり、思わず耳が傾く。
「そう」
「でもそれ噂の紙袋くんとちょっと違うじゃない。誰かをボコボコに殴るなんて」
違和感。自然と眉根が寄る。
「でも原因は殴られた方にあったみたいよ? 煙草の吸殻を捨てただの何だので揉めてたみたいだって」
「でも、そこまでする必要あったのかなあ。その人、骨折までいっちゃったんでしょ?」
「そうみたいね」
違和感が確信に変わる。
一番右の列、一番前。その席に座っているアキラが丸い眼を僕に向けているのが見えた。彼女達の噂話が聞こえたのだろう。相変わらずの無表情ではあったが瞳は語っていた。「信じられない」と。アキラと目を合わせたまま手に持っていた鉛筆をくいくい、と上に向ける。屋上で落ち合おう、というメッセージ。
隣の女生徒たちの噂話はそれからころころと変わり、やがてチャイムが鳴った。
アキラが席を立ったことを確認してから、同じように静かに席を立つ。
「どういうこと?」
アキラは屋上へと続く扉の手前で僕を待ち構えていた。急かすような瞳を向けて僕の言葉を待つ。



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