東京空虚ラバーズ
一、愛想ラバーズ 二、正義ラバーズ
三、偽者ラバーズ 四、空虚ラバーズ 偽者ラバーズ

「ボクさあ、捨て子なんだ」
それは唐突に。それはそれは唐突に。何の脈略も無く。平然とした顔でアキラは言った。そのまま受け流してしまいそうなほどさらりと。
「……そうなんだ」
やっとのことで言葉を搾り出す。
学校の屋上。僕らの溜まり場。今日も曇天。
寝転んだ僕の隣に足を投げ出した状態で座るアキラ。いつもと変わらないはず。なのに。昨日の古本屋の店主の話を聞いた後から、なんだかアキラの様子が変だった。口数が少ないのはいつものことだが、なんだか妙に塞ぎこんでいるような気がして。
「まだ赤ん坊だったボクを拾ったのは、十八歳の少年だったのさ」
いつもの口調。変わらない声。妙な違和感。
「想像できる? 今のボクらと同じ歳だよ。自分の生活だって危ういのに、赤の他人の子供を拾うなんて」
「まあ、僕だったらできないな」
率直に、感想を述べる。
「普通は、できないよ」
ちらりと横目でアキラの顔を見やる。唇を噛んで遠くを見つめるアキラは、なんだか急に大人びたように見えた。
「何が哀しいの」
思ったことを問えば、アキラは皮肉ったような笑みを浮かべた。
「きっと、"正義"だったんだろうなって」
曇天の空を見上げるアキラ。
「父さんにとって、ボクを拾うことは正義だったんだ。そうしないと、自分の存在が、赦されなかったんだよ」
「……どういう意味」
すう、とアキラが息を吸う音が聞こえた。
「父さんも、捨てられたんだ」
空を見上げたまま、アキラは言葉を紡ぐ。
「父さんの両親は、高校に進学したばかりの父さんを残して、この町ごと、父さんを捨てた」
ぽつり。雨が、ひとしずく。
「ボクを拾うっていう行為は、父さんにとって、両親への意思表示だったんだ」
自らアキラを引き取ることでそれを"正義"とし、それによって自分を捨てた両親を"悪"とした。
「正義だけのために、アキラを引き取ったと思ってるの」
ぽつり。ぽつり。雨のしずく。
「千景くん、ボクは、」
曇天が泣く。
「悔しいんだよ」



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