東京空虚ラバーズ
一、愛想ラバーズ 二、正義ラバーズ
三、偽者ラバーズ 四、空虚ラバーズ

怯むことなくアキラは問う。男性は眉根を寄せて険しい顔をしながらも、少しの沈黙の後答えてくれた。
「私には守るべき家庭がある。仕事をして金を稼ぎ、家族を養うことが私の正義だ」
よれよれのスーツを着て、疲れを声に滲ませて、それでも彼は家族の為に働いていた。それが彼の正義。
「……そうですか、分かりました。引き止めてしまってごめんなさい。ありがとうございました」
静かにそう言って道を開けるアキラに、男性は小さな笑みを見せた。
「この町で"正義"なんて言葉を聞けるとは思わなかったよ」フッと笑って、男性は僕たちの横を通り抜けた。
「……どういうこと? アキラ」
ちらりと横目で問うと、アキラはふう、と息を吐き出してから僕の方に身体を向けて答えた。
「ボクらの正義を探すんだから、まずは情報収集でしょ。いろんな人の"正義"、聞いてみようよ」
口元に笑みを携えた純粋な瞳でアキラは言う。まっすぐな声はどうしてか妙に説得力があって、僕は思わずゆるゆると頷いてしまっていた。
「さ、次行くよ」
何も言わない僕を置いて、アキラが早々に歩き出した。足取りは軽い。僕は自然とその足取りの後を追いかけた。

僕たちの正義探しは順調に進んだ。というのも、今までまったく見せなかった社交性をアキラがここぞとばかりに遺憾なく発揮し、道行く人皆に躊躇無く問い続けたからだ。「あなたの正義ってなんですか?」と。
その答えは様々だった。アキラの問いにあからさまに嫌悪感を示し無言で歩き去る人ももちろんいたし、暴言を吐いてくる人もいた。しかし中には僕らに好意を示して丁寧に話をしてくれる人もいた。荒れ果てたこの町で、久しぶりに誰かの好意を見た気がする。
ある学生は言った。「人を殺すようなやつは殺せばいい」
ある主婦は言った。「幼い我が子を守ることだけが正義」
ある男性は言った。「警察こそ正義」
ある少年は言った。「悪いやつはヒーローが倒すんだ」
ある女性は言った。「そんなこと考えたこともない」
ある少女は言った。「よくわからない」
色々な答えを聞いた。それこそ、十人十色だった。僕の頭は少し混乱していた。いろんな考えがぐちゃぐちゃに混ざり合っていた。
何人に問い続けたのかも分からない。陽は大分傾いて来ていた。もうそろそろ終わりにしよう、とアキラに提案すると、アキラは「あと一人だけ」と言ってどこかへ向かって歩き始めた。
着いたのは、書店。古びた古本屋だった。
「ボクの行きつけ」
短く説明を加えて、アキラは店内に入っていった



[ 9/20 ]

[*prev] [next#]
[しおりを挟む]

novel/picture/photo
top



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -