東京空虚ラバーズ
一、愛想ラバーズ 二、正義ラバーズ
三、偽者ラバーズ 四、空虚ラバーズ 正義ラバーズ

「君、まだそのダサい顔で行くの」
立ち上がった僕を見上げてアキラが問いかけた。ポケットから取り出したのはぐしゃぐしゃになった紙袋。
「僕はこの顔気に入ってるから」
シワのついた紙袋を広げて頭に被る。目の部分に開けた穴から世界の様子はよく確認できた。顔に当たる部分に描かれているのはまん丸な目の間抜けな顔。三日月のような口はいつも歯を見せてだらしなく笑い、小さな三角の鼻は無造作に描き殴られている。
「ボクが新しい顔描いてあげるって言ってるのに」
「別にいいよ」
否定の意味を込めて言葉を返すと、アキラは独り言のように呟いた。
「愛想ないなあ」
声が少し笑っているように聞こえた。
「じゃあアキラ、また明日」
「ん。行ってらっしゃい、"紙袋くん"」
その言葉を聞いてから、僕はそこから飛び降りた。ひとよりも少しだけ優れた運動神経を用いて。
屋上の扉を開けてタン、タン、とひとつずつ階段を下りていく。
この時間学校に残っている生徒は全校生徒の半分以下に減っているはずだし今は授業中だから誰かに会う心配はなかった。紙袋を深く被った頭で誰も居ない校舎を歩き、上履きのまま外へ出る。
そこら中に窓ガラスの破片や紙切れ、何かの部品、木材なんかが落ちていた。それがこの町の"普通"。ビルだけが残ったこの町に人の気配はほとんどない。商業施設も駅もその場に捨てられたままになっている。ひたひたと誰も居ない町を歩いた。相変わらずかかとを潰して履いている上履きがぱかぱかと音を立てた。
ふと声が聞こえた。もめているような大声の会話。自然とそちらへ足が向く。ビルとビルの間の細い路地で、男子学生数人がたむろっている。その中心にいるのは見るからに気弱そうな痩せっぽちの男子学生。
「カツアゲか……」
ぼそりと呟いた声は彼らにも聞こえたらしく、一斉に僕のほうを振り返った。
「なんだ、お前」
「あ、こいつ"紙袋くん"じゃん」
「噂の正義のヒーローか。すげー時代錯誤」
最初から敵意丸出しの彼らは僕を見て馬鹿にしたように笑い声を上げた。中心にいる痩せた男子学生は期待の眼差しを僕に向けていた。
「なに、こいつ助けにきたわけ」
中心の男の子を小突いて僕に問う。
「いや、別に。お構いなく」
そんな彼らに僕は応えた。
「は? なんだよそれ」


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