東京空虚ラバーズ
一、愛想ラバーズ 二、正義ラバーズ
三、偽者ラバーズ 四、空虚ラバーズ

ひとしきり笑ったあと、治まりきらない笑顔のままアキラが訊いた。
「君の"正義"とやらに反したの? カツアゲされてた彼を助けるという選択は」
「……まあ、そういうことになるかな」
僕の言葉に無意味にも見える頷きを何度か繰り返してから、アキラは小さく「そっか」と言って立ち上がった。
「じゃ、行こう」
寝そべったままの僕に手を差し出してアキラは言う。
「どこに」
問えば、にっこり笑ったアキラと目が合った。
「ボクらの"正義"を探しに、さ」




アキラと最初に言葉を交わしたのは高校の入学式だった。式と呼べるかもわからないいい加減で中途半端なそれが終わった後、僕は手持ち無沙汰になってなんとなく校内を徘徊していた。入学式だからか校内に生徒は一人も居ず、がらんとしていて寂しげだった。もう帰ろうかと踵を返して渡り廊下に差し掛かったときに、彼女を見つけた。渡り廊下の真ん中で柵に背中を預けて立つ、一人の少女を。
空を眺めているように見えた。手に、何かを持っていた。手のひらサイズの黒くて四角い何か。アンテナが伸びていたから、ラジオだろうと思った。それを片耳に近付けて、彼女は空を眺めていた。
自然と足が向いて、僕は彼女に近付いた。
「何を聴いてるの」
僕が話しかけると、彼女は驚いたのか弾かれたように振り返り、手に持っていたラジオを落とした。カン、とラジオが床とぶつかり音を立てる。
「ごめん」
驚かせてしまったことを申し訳なく思い、謝りながらラジオを拾った。手にしてみるとそれは予想よりもずっと小さく、ポケットにも入りそうなくらいで、とても軽かった。
「何を聴いてるのか、気になって」
ラジオを渡しながら言い訳染みた言葉を告げると、彼女は受け取ったラジオを僕の耳にそっと寄せた。
聞こえてきたのは、歌声、音楽。
ひずんだギターの音と、ゆるやかな声。男性の声だと思われるそれはそこはかとなくだるそうに、しかし心を落ち着かせるような声で音を紡いでいた。
何も言えずに彼女を見つめていると、彼女は無表情のまま口を開いた。
「正義を、歌ってるの」
楽しそうでも悲しそうでもない彼女の声と、世界を憂うような男性の歌声が僕の頭の中で混ざる。
かろうじてお辞儀に見えるようなくらいささやかに頭を下げて彼女が去った後も、僕はしばらくそこに立っていた。乾いた風のような彼女の言葉と、ラジオから聞こえてきた彼の歌声が頭にこびり付いて離れなかった。



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