赤裸々更衣室 (1/2)

 それは生徒会での野外レクリエーションの後、男子更衣室での着替え中に起こった醜い争いだった。


 「ぷっ」

不意に噴き出したのは、ジノ。これが始まりだった。周囲の人間が何事かと振り返る。リヴァルはジノの視線からその理由を察し、いち早く被害を食い止めようと口を開いた。だが、時既に遅し。リヴァルが言葉を発するよりジノの声の方が早かった。

「ルルーシュ先輩の、パンツッ!! 黒ビキニって、黒ビキニって…ぶはははははっ!!」

遠慮の欠片もなく、ルルーシュのパンツを指さして大笑いするジノ。流石スザクを超えるKYと言われるだけのことはある。寧ろジノの場合、“読めないんじゃなくて、読む気がない”疑惑まであるから一層質が悪かった。

 そのスザクはといえば、ジャージに着替えたついでにと無謀にも飼い猫のシャワーに奮闘している。
 それこそ、スザクが居れば鉄拳制裁でジノを黙らせてくれたかもしれない。それ以前に、スザクが居ればジノの視線がルルーシュのパンツなどに向けられることはなかっただろう。その場に居なくともスザクはやっぱり空気が読めなかった。
 
 リヴァルは平穏無事に済むことを祈った

が、あのルルーシュが笑われたまま黙っているわけがなかった。

「フッ、このハイセンスが理解出来ないとはな。お前こそ、トランクスなどに収まってしまうとは、図体程にそちらは大したことがなようだな?」

「あわわわわわ、なんつーことを言い出すんだ、ルルーシュ!!」

ルルーシュの優美な唇から吐き出されたまさかの下ネタに、リヴァルはあたふたと制止をかける。だが、リヴァルの苦労が実ったことなど今まで一度もない。唯一の救いは、中等部組のロロが風邪で休みだったことだろうか。

 この状況で天然KY爆弾の枢木卿が戻って来ればどんな惨事になることか、想像に難くない。こうなれば何とかそれまでにこの危険地帯から撤退するに限ると、リヴァルは着がえを急いだ。

 先程まで笑っていたジノだが、自慢の逸物をコケにされて蒼穹の瞳に険しい光を湛える。ナイト・オブ・スリーだけあって、やる時はやるのだ。大概において、そのやり所を間違えているが。

「ルルーシュ先輩こそ、見た感じ大したサイズじゃなさそうですけど。サイズがわかるような下着履いてていいんですか?」

「何だと!? 俺はフルサイズの時と普段とのギャップに定評があるんだ。お前こそ、サイズの見えないトランクスで隠しているぐらいだ。余程粗末なものなんだろうな」

「能ある鷹は爪を隠すって言葉を知らないんですか?」

「そういえばスザクが、以前、一緒に風呂に入った時に言っていたな。“男の癖に隠すなよ。女々しい奴”と」

ルルーシュも負けじと応酬する。さり気なく、スザクと一緒に風呂に入ったことを自慢しているが、ついでに自分が貶されたことを暴露していることには気付いていない。

 だがジノにとってはそんなことより、自分の方がスザクと親密であることを示す方が重要だった。

「ご心配なく。い・つ・もスザク相手には堂々と見せてますから」

「何!? この変態めっ!! 俺のスザクを汚すな」

「童貞によくありがちですよね。実のない所有権を主張するのって。流行の“オレの嫁”ってやつでしょ?」

 普段は馬鹿丸出しのジノが、ルルーシュ相手に対等に舌戦を繰り広げている。これは、経験に裏打ちされた自信のなせる業か、それとも単に普段腑抜けすぎているだけで本当は切れ者なのか。

 とにかくリヴァルはやっと制服に着替え終え、18禁話題の飛び交うその場所から脱出しようと出口に向かった。幸いにも、ルルーシュもジノも互いに牽制し合うことに夢中でリヴァルに話を振っては来ない。あと少しで扉に手が届くというところで、外側から扉が開けられた。

 とうとう現れてしまった。爆弾が。

「あれ、どうしたのリヴァル? 顔真っ青だけど…」

「あ、いや、気分が悪くて…保健室に行こうと思ってさ。あははは」

お前こそ大丈夫なのかというぐらい顔や手を引っ掻き傷と歯型で装飾したスザクに問いかけられ、リヴァルは曖昧に笑った。まさか、お前のせいだとは言えるわけもない。

「そっか、大丈夫? ところでルルーシュとジノは何してるの?」

それを俺に訊きますか……。

リヴァルは内心でスザクの天然さに涙した。件の二人は未だにパンツ一丁で仁王立ちして、粗○ンだ童貞だと罵り合っている。

「さ、さあ? 何か下着がどうとかで…。それじゃ、俺、腹痛いから!!」

「あ、うん。お大事に」

リヴァルは腹痛を患っているとはとても思えぬ速さで走り去って行ったが、スザクは特に疑問に思うことなく心配そうに彼を見送った。

 スザクは言い合っている二人を見て首を傾げただけで、放っておいて着替え始める。だがスザクがジャージのズボンに手をかけると口論がぴたり止み、二人の視線がじっとスザクに注がれた。

「な、何…?」

流石のスザクもたじろいで手を止める。

 「さあ、スザク!! そこの貴族のお坊ちゃんに、日本男児の心意気を見せてやれ!!」

「スザク!! スザクは、ルルーシュ先輩みたいな変態趣味じゃないよなっ。私は信じてるぞっ」

二人に迫られてもスザクには何がなにやらさっぱりわからない。とりあえず、放っておいて着替えようとズボンを下ろす。そして露わになったのは…

ボクサーパンツだった。

「「中途半端過ぎるぞ、スザク!!」」

二人の声が見事に重なる。一体何のことだかわからずに、スザクもまたパンツ一丁できょとんとしていた。



 スザクは二人から事の経緯を聞いて、溜息を吐いた。馬鹿馬鹿しいとばかりに、再び制服に着替え始める。

「どっちでもいいじゃないか、そんなの…」

ルルーシュのセンスがちょっとアレなのは今に始まったことじゃないし、ジノのアレが粗チ○だろうとスザクもルルーシュも困らない…筈だ。スザクのパンツだって、単に軍の支給品がたまたまボクサーパンツだっただけのことだ。

スザクが制服に着替えながら気の無さそうにそう説得すると、何故か二人ともショックを受けてそれぞれ落ち込んでいた。

 だがスザクは静かになったから納得したのだろうと、着替え終えて部屋を後にしようとする。

 「じゃ、じゃあ、スザクが男らしいと思う下着は、どれなんだ?」

ジノが復活してそこに追いすがった。ルルーシュも熱っぽい瞳でスザクの返事を待っている。

 スザクは更衣室のドアノブに手をかけたまま、とりあえず自分が男らしいと思う人物を思い浮かべてみる。小さい頃一緒に銭湯に行った時、あの人が履いていたのは、確か……

「褌…かな?」

それだけ告げて、スザクは顔を朱くして更衣室から出て行った。

 「フンドシ? 何だそれは? 今度アーニャに訊いておかないと…」

「スザク!! まさか、そこまで日本男児とは…。ここは、スザクと揃いの褌を俺自らデザインして…」

 この後、女子に人気の美形副会長とナイト・オブ・スリーがあまりにも自信満々に褌を身につけていたことから、アッシュフォード学園の男子の間で、密かに褌ブームが到来したとか、しなかったとか。

 END


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