薔薇の香りと真紅の花弁 (1/2)

 「近頃、君の体では愚かな張り合いが続いているね」
シュナイゼルはスザクから総ての衣服を取り上げ、後ろから彼の項に唇を押し当てて愉快そうに笑った。唇が触れた場所には絆創膏が貼られており、シュナイゼルの唇はスザクの肌に触れなかった。スザクは笑いと共に吐き出された吐息に擽ったそうに首を竦め、肩越しにシュナイゼルを振り返る。その瞳に疑念と不安とが宿っているのを感じると、シュナイゼルは彼の額に唇を落とした。
 「大丈夫だよ。君の体は今日も最高に魅力的だ」
「いえ、自分は……」
明らかにからかいの混じった讃辞。スザクはそれに律儀に頬を染めつつも、からかいと理解しているのか、困ったように眉端を下げる。
 「何の問題もないよ。ただ…」
シュナイゼルの指先がスザクの項をなぞる。
 「ここにいつも噛み痕をつけているのは、ヴァインベルグ卿だろう?」
今は絆創膏に覆われているその場所には、絆創膏が貼られていない時には大概新しい噛み跡が付いていた。
「どうして…?」
スザクが驚いたように目を見開く。中途半端に発せられた言葉を、シュナイゼルはどうしてジノだとわかったのかという意味だと正確に読み取った。
「それは教えてあげられないな。教えてしまっては、面白くないからね」
 シュナイゼルは後ろからスザクの脇腹をそっと撫で上げながら、彼の柔らかい髪に顔を埋める。昨日はムスクの甘い香りがしたが、今日はシトラスの爽やかな香りが鼻孔を擽った。
 「それで…」
「あっ…殿下…」
シュナイゼルの掌がスザクの胸へと滑り、胸の飾りを指先で掠める。それと共に、シュナイゼルは絆創膏ごしにスザクの項に口付けた。
「この絆創膏は、誰に貼って貰ったのかな?」
シュナイゼルの問いに、スザクの体が彼の腕の中で硬くなる。シュナイゼルはそれを体で感じ取り、口角を上げた。
 「……友達…です」
スザクの歯切れの悪い返事。本人は自覚しているのかいないのか、声が震えている。
「友達ね…。私に言えないようなオトモダチが、まだ居たのかい?」
シュナイゼルは咎める意を込めて、スザクの胸の飾りを軽く抓った。抓られたその場所は既に硬く凝っており、スザクは息を詰めて体を震わせる。
 スザクの体は敏感で淫らだ。だが、彼自身が淫乱かと言うとそうでもない。男を誘う性質を持ち合わせてはいるが、彼自身がこういう行為を楽しんでいるとは思えなかった。何度抱いても処女のような羞恥と自己嫌悪を見せる様に、シュナイゼルは雄を煽られるが同時に痛々しいとも思う。その癖「馴れてますから」と平気な顔を装い、自分の体を道具として扱う所も気に入らない。
 そんなに粗末に扱うぐらいなら、私にくれればいい。誰にも見えない所に仕舞って、大事に愛でてあげるから。そうシュナイゼルは思う。
 シュナイゼルはスザクの男性関係を把握し、援助や後ろ盾目的のものはすべて切らせた。結果としてキャメロットの予算は特派時代と同じく、すべてシュナイゼルから出ている状態だ。
 スザクはシュナイゼルの立場が悪くならないかと案じていたが、シュナイゼルは皇族。その上、優秀な宰相として周囲の覚えもいい。結果として、第二皇子がイレブンの雌猫に溺れて貢いでいることに対する非難はすべてスザクに向けられている。
 だが例え誰から何と言われたとしても、シュナイゼルは気にしなかっただろう。スザクが自分以外の腕の中で鳴いていることに比べれば、周囲の批判など蚊ほどの痛みも感じない。
 シュナイゼルの努力の甲斐あって、シュナイゼルを除いてスザクが肉体関係を持つ相手は、彼の職権乱用ではどうにもならない相手とスザクが金銭目的以外で関係を持っている相手のみになっている。皇帝とナイト・オブ・スリー、そして不確定だが恐らくロイド。この3人だけだった。スザクからシトラスが香るまでは。
 あのジノ・ヴァインベルグと露骨に張り合っている相手が、ただの友達の筈がない。だが、スザクはシュナイゼルの追及に緩く頭を振った。
「彼とは…そういう関係じゃ…ありません…。学校の…友人です」
「あぁ、なるほど」
確かにスザクからシトラスが香るのは、彼を学校帰りに呼びつけた時だけだ。今日も彼はアッシュフォードの制服のまま、シュナイゼルの元へ現れた。
 ロイドやセシルを真似て「おかえり」と言ってやると、擽ったそうな表情で「ただいま戻りました」と告げるのが可愛らしかった。
 「で、君はそのオトモダチに、こんなことをされたのかな?」
シュナイゼルはスザクの双丘の谷間に、そっと指を這わせた。
「んっ…されてません。ル…彼とはそういうことは…はぁっ」
シュナイゼルの指が蕾の入り口を擽ると、スザクは震えた息をゆっくりと吐き出す。触れられる期待に蕾が収縮するのを指先に感じ、シュナイゼルは閉ざされた入り口乱暴にをこじ開けた。
 「あ、くぁあっ…」
明らかに快感ではなく、痛みによる呻きがスザクの唇から漏れ出す。受け入れることに慣れているとはいえ、潤いなく突き入れれば当然の結果だ。
「君のここを壊してしまいたいよ」
こじ開けた蕾がそれでも壊れずに開いていく感触を感じつつ、シュナイゼルは切なげに囁いた。


 行為を終えスザクはシュナイゼルの腕の中で眠っていた。肩甲骨のくっきりと浮き出た背中が規則正しく上下するのが、シュナイゼルには愛おしい。
 胸元に埋まる丸い頭に頬を寄せると、シトラスでもムスクでもなく薔薇の香りが甘く誘う。シュナイゼルはスザクの項の髪を指先で除け、現れた絆創膏をそっと捲った。その下に刻まれた傷の上に唇を落とした。
「ん…」
そのままきつく吸い上げれば、スザクの唇から僅かに声が漏れる。それが安らかな寝息に戻ったのを確認してから、シュナイゼルは唇を離した。スザクの項に咲いた赤い花に唇を歪めてから、捲った絆創膏を元に戻す。
 「どうやら私も愚か者の仲間入りのようだね」
自嘲を浮かべながらシュナイゼルは呟いた。だが、その口調は満更でもなさそうだった。

 END


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