柑橘の香りと絆創膏 (1/4)

 スザクはいつも色んな匂いがする。それは時には、ジノが社交界で嗅ぎ慣れた香水の香り。時には彼が作る日本食の味噌汁の香り。消毒液と血の匂い。甘いお菓子の香り。紅茶の香り。
 ジノはスザクの体臭というのを感じたことが殆どなかった。人種故か汗をかいていても、それ程匂わない。強いて言うなら、彼の部屋の風呂場に置かれている素っ気ない石鹸の香り。それがスザクの香りと言えなくもない。
 そんなスザクの香りが、自分と同じ香りになればいい。ジノがそう思い始めたのはいつ頃だったか。だからジノはスザクに会う度に肩に腕を回したり、抱き締めたりした。出来るだけ近くに居ることで、自分の香りがスザクに移るように。
 スザクと一度別れてまた次会った時に、スザクから自分の匂いがするとジノは安心できた。違う匂いがすると胸が痛んだ。そしてまた自分の匂いに書き換える。スザクからジノ以外の匂いが消えることを夢見て。


 部屋に帰ってきたスザクを出迎え、ジノはその細い体を抱き締めた。スザクの柔らかい癖毛に顔を埋めると、仄かに香る麝香。自分の移した香りが、まだスザクに残っている。ジノは愛しげにスザクに頬擦りした。
「ちょ、ジノ…何…」
「今日は真っ直ぐ帰って来てくれたんだな」
ジノは我ながら浮気な夫を持った健気な妻のようだと思う。
「確かに今日はどこにも寄ってないけど…よくわかるね」
スザクがジノの言葉の意図に気付いて苦笑する。
 スザクは香りのことには気付いていないらしい。スザクは元々そういうことに無頓着だし、自分の匂いというのは案外判らないものだ。
「毎日スザクを待ってるんだ。そのぐらい判るようになるさ」
ジノは自慢気にそう告げて、誤魔化した。
「っていうか、いい加減自分の部屋で寝起きしなよ…」
スザクは呆れたように肩を竦める。最初の頃は部屋に帰ってきてジノが居ると、スザクは力尽くで外に叩き出していた。だがジノがずっと続けているうちにとうとう諦めたのか、最近では何も言わない。お陰でジノは、近頃では殆どスザクの部屋で寝起きしていた。自のはこれ幸いとスザクの部屋に自分の私物を増やしていき、ベッドもキングサイズに取り替えた。スザクの私物が少ないこともあって、今では誰の部屋だかわからない状態だ。
 「スザクがいないと私は安眠できないんだっ」
「君は子供じゃないし、僕は熊の縫いぐるみじゃない」
「スザクはどっちかっていうと、熊より猫だよな。細いしツンデレだし」
スザクは無駄な説得を諦めてため息をついた。抱き付いているジノ引き剥がし、服を脱いで浴室に向かう。ジノも慌てて服を脱ぎ捨て、それに続いた。


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